習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ただ君を愛してる』

2006-11-02 00:29:02 | 映画
 予想外の面白さだ。ラストまで気持ちよく見れた。とても美しい映像は、全てを夢のように描くこの作品にぴったりだ。現実感がまるでなく、無色透明なファンタジーとして、この青春映画は成立する。広々としたキャンパス、優しい仲間、幸福な毎日。生活感もまるでない。絵空事を描くのではない。しっかりした夢の世界を描いて見せるのだ。
 
 主人公の青年は写真を撮るのが大好きだ。人と接するのは苦手。自分にコンプレックスを抱いている。皮膚病の薬を塗っているからその臭いがひどい。それを知られたくないから他人と近付きたくない。(玉木宏はとても18歳には見えないが、びっくりするくらいにピュアな青年を好演している。)

 そして、彼が出逢う少女。大学の入学式で会い、そのままなんとなく友だちになってしまう。(宮崎あおいがすごくいい。ぼさぼさ頭でスモックみたいなのをいつも着てる天然の不思議ちゃんを演じており、とても現実世界を生きてるように見えないのがすごい。こんなキャラを演じ厭味にもマンガにもせず、さらりと説得力を持ち見せる。)

 少女マンガのような主人公たちが、嘘のような世界で生活する日々がさらりと描かれていく。大学の傍には森と湖があり、そこで写真を撮り、時を過ごす。

 ふたりが出会い、大学での夢のような時間を過ごし、ある日突然彼女が失踪するまでの3年間。彼女に自分と同じにおいを感じ取り、気のおけない友だちとして、なんとなく付き合い続けることになる。それが恋愛になることはない。手もつながないし、キスもしないような恋。それをこんなにも素直に描いた映画は近年にはなかったはずだ。だから、たった一度のキスを一生の思い出として生きる、なんていうストーリーに共鳴できたりするのだ。

 砂糖菓子のような映画に説得力をもたすのは、作り手の誠実な作業しかない。この映画は絶妙なバランスの上に成立する。一歩誤ると目も当てられない映画になったはずだ。主人公が恋する同級生の黒木メイサもよい。この主役の3人が自然に映画の世界に存在するのがいい。

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