彼女の心は少しずつ壊れていた。そして、ある日突然、他の人格が入ってきて爆発する。自分には言えないことを言う。他人が(といっても、母親をはじめとする一番身近な人たちだ)憑依して、本音を話す。彼女が抱えるものを、ひとつひとつ見せてくれる。
優しい夫は彼女を守ろうと必死になる。でも、彼にできることなんか知れているし、彼自身が自分に何ができるか、気づいてはいない。自分の身に降りかかってきた災難のように思っているから彼女の気持ちなんかわからない。でも、これはヤバいことだと認識し、家族を守るために、なんとかしようとはしている。それって結局は自分のためでしかない。妻がこんなことになったのは、彼の責任も大きい。義母のことだけではない。
無言のプレッシャーをかけてくる社会の前で、彼女は自分を見失う。子育て、家事、主婦として当たり前のこと。夫は仕事をして家族を支えてくれているのだから、と。そんなふうにして自分を抑えてきたのか。
自分が自分であるために、何が必要なのかを見つめなおす。再び仕事に就くことを断念する、という消極的な結論に、納得がいかないという人もいるだろう。しかし、安易な答えを出すことは無理、という作り手側の姿勢が心地よい。ここには答えなんかない。でも、ここから始まることもある。