泣ける。こういうベタな話なのに、ちゃんとそこに嵌まってしまえるのは、作り手がなんの衒いもなく、思い切りこの世界を信じたからだ。そこで要らない小細工なんかをしたら、きっと目も当てられないものになる可能性も十分にあった。そういう意味でこれはかなりこわい企画なのだ。だが、作、演出、主演をいつも通り兼ねる主宰の石井テル子さんは怖れない。堂々とこの世界観を信じる。こんなことがあり得たのだ、という。そこからこれもいつものように音楽を通してお話を進めていく。ありきたり(のドラマ)ではなく、奇跡(の、事実)として見せる。
嘘はつかない。もちろん、現実に2001年と2017年がトランシーバーでつながったりはしない。(映画とかの中でなら、安易にそういう設定がよくなされるけど)だが、この芝居の描く世界ではそういう奇跡が起こってしまったのだ。この作品は、そこだけはありえないけど、それ以外はみんなあり得るものとしてのリアルさで描かれていくのがいい。
とてもシンプルなお話なのだ。発達障害の男の子と、彼の周囲の優しい人々。少年はそんな優しさに包まれて、成長していく。2001年、彼が生まれるまでの経緯。2017年、現在の彼が生きる時間。並行してふたつの話が描かれていく。やがて、それらは交わる。時空を越えた交流。そして、彼は大切な母親のために、未来を変えようとする。
自らの運命を変えようとするドラマならよくあるけど、この作品が描こうとするものは、運命は変えられない、ということだ。だが、それは諦念ではない。それが、不幸だとは言わさない、のが素晴らしい。みんなが全力で今を生きる。悔いのない人生を生きるには、どうするべきなのか。ここにはその答えがある。
小さな歌を巡るささやかな母と息子の物語。たとえ、未来が見えてしまったとしても、運命にあらがわない。受け入れる。だって、それが最愛の息子のためなら、怖くない。そんな母親の決意を、まだ幼い息子は噛みしめる。16歳の少年が、全力で生きた時間がこの2時間の芝居のすべてだ。音楽と芝居の融合を目指すMicro To Macro、10年の総決算。