来年劇団創立60周年を迎える息吹の最新作は定年後の生き方を巡る物語。劇団だって60年過ぎたら定年になるのか、なんて、思いもしなかったけど、そんなバカなことを考えさせてくれるような丁寧で爽やかな作品に仕上がった。なんと2時間を超える長尺作品なのだが、それを休憩なしで一気に見せてくれたのも嬉しい。(年配の役者たちも多数いるのに。まぁ、休憩を入れなかったのは、実は、会場の閉館時間の都合らしいけど)
高齢の観客への配慮から2時間越えの作品は途中休憩を入れる場合がよくあるが、作品の流れを損なう場合も多いから、気をつけなくてはならない。この作品の場合は絶対に一気に見せた方がいい。これはささやかなおはなしである。でも、高齢者にとっては大事な問題だ。
とあるコーラスサークルの集まりを舞台にして、定年後の生き方を男の立場、女の立場それぞれから描く。(でも、メンバーは圧倒的に女性が多い)夫婦で参加するもの、仕事を持ちながらも楽しみとして参加しているものもいる。全体的には年齢層は高いけど、まだ、40代の主婦もいる。少人数の集まりだから、少し広いリビングのあるメンバーの自宅で練習している。これまでは自分たちの楽しみで歌ってきたが少し軌道修正して、コンクールに参加したらどうか、という話が起きる。新しい試み、そこから始まる対立が描かれる。やがてさらにはそこからそれぞれの家族が抱える問題が浮き彫りにされてくる。
指揮者の響子さんの家に集まって練習していたのだが、実は彼女の旦那さんがこの活動を好ましく思ってない。(大坊さんが素晴らしく「嫌な夫」を演じる)でも、彼女は夫に何も言えないまま、自分の中に鬱屈を抱え、やがて心を病んでいく。
これは単純で、明るく楽しいだけの芝居ではない。でも、いろんな問題をはらみながらも「それでも歌いたい」という気持ちが勝る。そんな彼らの姿が丁寧に描かれていく。作り込んだセットもいいし、そこで10人ほどのサークルのメンバーが集まり、ああでもない、こうでもない、と議論を交わし(というか、おしゃべりする)そこからいろんなことが見えてくる、というスタイルもいい。
どこにでもあるような断絶、和解を通して前進していく彼らの姿が眩しい。ベテラン劇団がきちんと手を掛けて作品作りに取り組み、元気になれる芝居を目指す。その心意気がちゃんと伝わってくる作品だった。