習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

原田ひ香『彼女の家計簿』

2014-04-14 22:37:38 | その他
これは凄すぎる。あまり期待しないで読み始めたからかもしれないけど、そのお話の中にどんどん引き込まれた。シングルマザーの里里のところに古い家計簿が送られてくる。それは彼女の祖母の家計簿だ。それを発見した女性は水商売や風俗をしていた女性の自立を応援するNPOの代表をしている晴美。最初は里里の母親である朋子のもとに送られたのだが、朋子が里里のもとに転送した。そこには女性が自分自身として生きるのが困難だった時代の静かな戦いが描かれていた。

 3世代の女性のそれぞれの生き方。祖母と母、そして自分。家計簿のささやかな記録を読み進めながら、自分が今置かれた状況と向き合う。仕事を失い、幼い娘と2人、失業保険で食いつないでいる。そんな彼女を応援することになる晴美。彼女もまた、過去の傷に囚われて、生きている。それぞれが抱える痛みと向き合う。そんな2人の間に家計簿がある。そこには、祖母がどうして失踪したのかの謎に迫るヒントが隠されてある。

 自らの痛みとちゃんと向き合うことで、未来は開けてくる。謎の核心に迫ってくるお話の終盤は、これがどこに着地するのか、とても気になりながらも、それが単純な話ではないことはうっすらとわかる。戦時下、戦後の日本で、女が自立して生きることは困難だった。女性蔑視は如何ともし難く、そんな中で働きながら子供を育てることは、生易しいものではなく、でも、彼女はそうしたかった。家計を助けるため仕方なく働きだしたはずなのに、(彼女の収入に家族全員が頼る)家族の理解は得られない。夫は仕事が見つからないまま、ずるずる怠惰な生活に陥る。仕事だけが生きる喜びだ。でも、子供はほっておかれる。

 それぞれの気持ちがすれ違う。置かれた状況が変わると、こんな風にはならなかっただろう。母親に棄てられて、それからは人に心を閉ざすようになった。彼女がこんなにも娘に冷たいのはなぜか。絶縁状態の娘が、心を閉ざしたままの母親を訪ねるラスト。ほんの少しだけ心が動く。それぞれがそれぞれの過去と向き合い、そこから新しい明日が開けてくる。これはいろんな意味で勇気の出る小説だった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『テイク・ディス・ワルツ』 | トップ | 『刀のアイデンティティ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。