習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

吉永南央『オリーブ』

2010-04-25 19:55:04 | その他
 初めての作家を読むのはちょっと緊張する。どんな文体を持つのか、どんな発想を、どう見せるのか、それが気になる。健闘していても、そこまでだ。なかなか凄い人には出会えない。1冊でさよならするしかない人も多い。

 今回も微妙なラインだ。こういう中間小説の問題点はいつも同じだ。かなりよく出来ているにも関わらず、がっかりするしかないのは、せっかくの発想をつまらないオチで台無しにさせることだ。どいつもこいつもすぐ話に決着を付けたがる。それは読者の要請でもあるのだろうが、世の中はそう簡単にはできてないはずだ。もちろん何でもかんでも曖昧なままにしろ、だなんて断じて言わない。技量のなさを韜晦でごまかすなんて最低だ。そんなことをして欲しいわけではない。だが、簡単なオチで括るのはつまらない。

 妻がいきなり家出して、何の消息もない。彼女の足跡を追う、というまぁ、よくある話だ。だが、導入部がうまい。謎が謎を呼ぶ、と書けば安っぽくなるが、驚くべき事実が露呈していく過程はドキドキさせられる。

 自分が今まで見ていた妻はただの幻でしかない。本当の彼女はそこにはない。5年もの歳月は一体何だったのか。失うことで知らされること、それが描かれる。。表題作以下、全5編はいずれもそこを描く。だが、いずれも単なる説明で終わる。心の闇をえぐり取るには至らない。これだけのストーリーテラーなのに、そこに魂を吹き込めないのは、残念でならない。小説は説明ではない。

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