どうしてこんな映画を『アバウト・シュミット』や『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』のアレクサンダー・ペインが撮るのだろうか、と疑問に感じた。彼がメジャーの娯楽大作映画を手掛ける。しかも、ファミリー向けのSF映画だ。主演はマット・デイモン。人間が17センチになって生活する世界の話、なんて。
だが映画を見ていろんなことに納得する。これは確かに彼の映画なのだ。まるでメジャー映画ではないし、ファミリー向けの映画でもない。SFですらない。いつものように放浪する話で、しかも、媚びない。わかりやすくはない映画なのだ。最初は、なんだかなぁ、と思いながら見ていたのだが、手術を受けて、サイズダウンしたところから、想像した定番ストーリーからどんどん外れてくる。
手術の時に、妻が逃げ出す。小さくなることを放棄するのだ。結果、ひとりで小さくなった彼が大冒険をする、というのは確かにそうなのだが、巨人の国には行かない。小さくなった世界でのお話としてラストまでいく。この世界でどう生きていくのかが描かれるのだが、それならダウンサイズなんていう設定は要らないのではないか、と思うくらいの勢いで話は展開していく。従来の世界と、ダウンサイズで作られた世界の対比はない。あくまでもこの世界の話として閉じていく。
なんとも不思議な映画なのだ。ここまで設定を無視して、何をしようとしたのか。新しい世界なんかないのかもしれない。どこにいこうと同じ。人と人との関わりがある。そこでどういうスタンスで生きようとするのかが大事で、場所は関係ない。豊かな生活が叶うと信じてここに来たはずなのに、彼は以前以上に貧しい暮らしをすることになる。自ら望んで、である。生きがいというものはどこから芽生えてくるかわからない。ひとりの女性と出会って、最初は何とも思わないし、仕方なく付き合うのだが、彼女でなくてはならなくなる。そんなふうに書くとなんだぁ、ただのラブストーリーじゃないか、と思われるかもしれないが、そうではない。ふたりの関係性はそんな単純なものではなく、そこにあるひねりかたがとてもいいのだ。その部分がダウンサイズという設定以上によく出来ている。
それにしてもこういう映画をこのストーリーラインから作れるアレクサンダー・ペインは凄い。ふつうじゃない。想像される定番ストーリーからどんどん迷走してもまるで平気。想像を絶する展開の唖然。それを2時間15分の長尺にして見せる。でも、納得。それどころか彼らしいと満足させてくれる。ほんとうに不思議な映画で、自分はいったい何を見たのか、とキツネにつままれた気分にさせられる。