習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『私の恋』

2011-02-01 21:50:07 | 映画
 イ・ハン監督の『永遠の片想い』は忘れられない作品だ。あの1本のなんでもない青春映画は僕にとっては今でも大切な作品として胸に深く残る。とてもきれいな映画だった。風景も、主人公たちの心も。あれはただの絵空事のような恋愛映画でしかないのかもしれない。だがあの切ない気持ちには嘘はない。続いて公開された『青春漫画』も綺麗事でしかないかもしれない。だが、あれでいいと思った。

 これで3本目である。また、同じように甘い青春映画だ。今度は4組の男女の恋模様である。報われない恋心が描かれていく。また同じようにこれも絵空事の綺麗事だ。こういうのにはうんざりさせられる、という人もたくさんいるはずだ。しかも、今回はさすがの僕でもフォローしきれない。ここまで甘い映画では納得いかないからだ。それぞれのエピソードの書き込みが浅いから、見ていて恥ずかしくなる。かわいい話ではある。一生懸命な気持ちは十分にわかる。だが、それだけでは映画として成立しない。ここまでストレートな映画はなかなかないだろう。先の2本の場合はきちんと描きこんだから納得がいくものになったが、残念なことだがここまで浅いと、さすがに無理だ。あまりにストレートすぎて、その単純さにはついていけない。

 ただイ・ハンらしいこの素直さは嫌いなわけではない。しかもいつものように映像はとても美しい。ロケーションが生かされている。恋人たちをそこに置いたとき、絵としてきれいに収まるのがいい。だが、そこまでだ。ここにはちゃんとしたドラマはない。ちゃんと人間が描かれていない。

 4つの物語はそれぞれうまくいかない恋ばかりだ。イ・ハンの映画の主人公たちは、いつもそうだ。不器用で、自分の気持ちを上手く伝えられない。だから、損ばかりする。そして、苦しい。

 死んでしまったひとのことを忘れられない男や、振り向いてもくれない男の人をずっと思い続けている女性とか、見ていてもどかしくなるようなことばかりだ。それでも、彼らは一生懸命相手と向き合っていく。そんないじらしい男女の姿が描かれていく。あまりに一途で恥ずかしくなることもある。だけど、ちゃんと応援してあげたくなる。どうしようもないことを、どうにかしようとして、必死になるけど上手くいかない。

 パステルカラーの淡くて、美しい色彩で、クライマックスの奇跡の起こる皆既日食の日にむけて、それぞれのドラマが並行して、ところどころでは微妙に重なりながら、展開していく。いかにもイ・ハンらしい映画だ、とは思う。そのルックスは好きだが、先にも書いたがこのドラマの浅さはどうしようもない。彼は不器用なのだから、あれもこれも描かなくてはならない群像劇はやめたほうがいい。先行する2作が成功したのは主人公たちのみにすべてを集約したからだ。『永遠の片想い』の感動のラストを思い出すだけで今も胸がいっぱいになる。あれは昔の良質の少女漫画を読んだときの感動である。あの甘酸っぱい気分が甦り、胸がキュンとなる。あんな映画をまた見せて欲しい。


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