習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『かって、ノルマンディーで』

2008-10-09 21:31:19 | 映画
 このドキュメンタリーのあまりの方向性の危うさに、ちょっと戸惑ってしまった。この映画が一体何をしたいのか、あやふやで、つまらない映画では断じてないのに駄目だった。今回のようにDVDで見た場合、どうしてもストーリーのない映画は集中力を欠くと、作者の意図すら伝わらず、それがきちんとこちらの胸の中に落ちてこないから、結果、散漫な映画という印象しか残さない。これは残念な見方をしてしまった。

 『僕の好きな先生』のニコラ・フィリベール監督の力作なのに。それをお茶の間で、疲れた体で、見るなんて、そりゃぁ眠くなっても仕方ない。いいわけだが。

 30年前に作られた1本の映画。現地の農民たちを主人公にして、その村で実際に起きた惨殺事件を題材にして撮られた映画。それは斬新で野心的な作品だった。でもそんな映画僕は知らなかった。たぶん日本では公開されていない映画だ。フランスでも、もう忘れられた映画なのではないか。たぶん歴史には残るような映画ではなかったのだろう。そんな映画にスポットを当てる。

 その映画のロケ地を訪ねる。そして当時の事を知っている人たちに話を聞いていく。彼らは30年の歳月を体に刻み込む。かっての面影はもう残っていない人さえいる。1本の映画に出演して、その後またもとの農民に戻った。そんな彼らのあの頃の<思い出>そして<今>を丁寧に見せていく。映画という非日常が彼らの生活の中に嵐のように入ってきた日々。それが彼らの人生にどんな影響を与えたのか。

 この静かな映画は声高に映画愛とかを謳う訳ではない。ただ、静かにその後の彼らの姿を見せていくだけだ。そして、今も変わらないこの村の自然と生活を捉えていく。豚の解体シーンが衝撃的だ。だが、それは彼らのただの日常でしかない。

 30年前の映画とその題材となったショッキング的な事件(長男が母と妹、弟を惨殺する)の意味を深追いしていくことはない。それよりもたくさんの人たちが1本の映画と関わったことの意味の方に力点が置かれている。それがこの映画にいいところでもあり、ものたりないところでもある。なんだか、微妙だ。

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