70年代の日活映画だから、にっかつ映画であり、これはほとんどロマンポルノの一作でもある。もちろんこれはポルノではなく一般映画だ。にっかつは年に何本か無理してロマンポルノの狭間で一般映画も作っていた。それは映画会社としての矜持かもしれない。だが、劇場は普段ポルノをしているから一般の観客は入らない。そんな時代だった。
これは74年作品だから、さすがにまだ僕は映画館では見ていない。あの頃はまだ子どもだったから神代映画はわからなかった。もちろんロマンポルノも見ていない時代の話だ。だがその後の作品はリアルタイムで見ている。『高校大パニック』と『帰らざる日々』は忘れられない映画だ。あの頃のにっかつのプライドを賭けた傑作である。この2本は石井聰亙の残遺と藤田敏八の魂の込められてある映画だった。そしてこれはロマンポルノのエース神代辰巳が登板して、当時のにっかつの社運を賭けた作品だった。(はず)
自称「無政府主義者」が暗躍した大正時代を背景に、ふたりの若者と政治家令嬢との無軌道な逃避行を描く。脚本は『青春の蹉跌』の長谷川和彦、監督はもちろん『赤線玉の井 ぬけられます』や『恋人たちは濡れた』を既に作っていた神代辰巳のコンビ。主人公は『赤ちょうちん』の高岡健二、『旅の重さ』の高橋洋子。このふたりに夏八木勲が加わる。だからこれは『明日に向かって撃て!』や『冒険者たち』の日本版となる、はずの作品だった。
だがそうはならなかったし、神代はそんなセンチメンタルをしたかったわけではなかった。だけど何がしたいのか、今見てもよくわからない映画だったのも事実だろう。録音が酷い(口と合わないし、聞き取りにくい)し、映像も悪い(いきなりのズームとか、揺れまくりのカメラ)し。わざとしているのかもしれないが、まるで乗れない。どうしようもない苛立ちから抜け出すために暴走する映画。それはわかるけど、映画自体はつまらない。50年の歳月を経てようやく見たけど、残念だが、こんな映画があの当時作られていたのか、という事実の確認にしかならない。