坂の上の家という設定だけで、この小説を読むことにした。甘い少女マンガのような読み物は嫌だけど、もしかしたら思いがけない拾い物かもと期待もして、読み始める。320ページもあるからそこそこの長編だ。
昔『坂道のぼれ!』という少女マンガがあった。とてもいい漫画で大好きだった。中学か高校の頃に読んだ。あれは高橋亮子の作品。余談だが、彼女の『夏の空色』はかつての僕のバイブルだった。たぶん部屋の何処かに今も隠れているはず。これも余談だし、秘密だけど、坂道の上に憧れて、市立高校という学校で働いていた。大好きな学校だ。11年勤務して3回(だから9年、ね)担任を持った。素晴らしい体験だった。毎日坂道を登って高校に行く。それだけで楽しい。学校の周りは田舎で、裏山まであり、ランニングも楽しい。
坂の上にある『何か』に心惹かれる。だから、それだけでこれも読み始めた。期待通りの作品だった。設定は少女マンガそのもので、最初は少し戸惑ってしまうが実はそれだけではなく、これはひとりの女の子(29歳)の自立を描くお話。
ひとりで生きているはずが、気がつくとみんなと共に生きている。寂しくて、ではなく自分に正直になったから。大好きだった幼なじみとの同居から始まる胸キュン・ラブストーリーに見せかけて、そんなことよりもっと大事な問題がここには描かれてある。彼女はあり得ないような関係を受け入れて幸せになる。やはり、坂道の上は幸せがある場所なのだ。改めてそう思う。