AIが限りなく人間に近いものになる、というのはアトムの時代からSFで散々に描かれてきた話だ、いまさら、なのだが、この映画の新鮮さは、そんなありきたりに密室サスペンスを導入したところにある。しかも、世界から隔絶した広大な空間。2人の人間とAI。2人の男とひとりの女。彼らが織りなすドラマは恋愛ものに見えて、そこから大きくはみ出す。
『ブレードランナー』なんかを持ち出すわけもないけど、この映画はこのジャンル映画の王道を行く設定なのに、とても新鮮だ。登場人物が3人(から4人)に限定される。広大な屋敷は密林の中にあり、文明社会と隔絶している。そこで、純粋培養されたAIと彼女に惹かれていく男。人間の根源へと迫るドラマがそこに内包される。神話的なお話になるのだ。
AIの彼女が、人工皮膚とかで人間そっくり、である、というのではなく、最初は色んな部分がむき出しのロボットでしかない。なのに、彼女の魅力に引き込まれていくことになる。そこには作為はない。彼女はピュアな存在として描かれる。自分の存在に疑問を抱き、ここから出て他者と出会いたいと望む。そんな彼女を助けたいと思う。実験のためにここに連れて来られ、彼女と向き合い、やがて、そこからどこに向かうことになるのか。壮大なテーマとかは一切ない。潔いくらいに、野心のない映画だ。だけど、これがとても面白いのは、ディテールの緻密さ故だろう。決して大予算の大作映画ではない。だけど、用意された空間の魅力がお話自体を広げる。小さなお話を豪華な仕様で、適切に語ったとき、映画は思った以上に興味深い作品に仕上がった。