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映画・演劇のレビュー

飛鳥井千砂『アシンメトリー』

2009-12-24 19:42:50 | その他
 なんだか気味の悪い恋愛小説だ。読んでいて少し胸糞が悪い。ラストのハッピーエンドのような、でもバッド・テイストも、作者の狙いなのだろうが、居心地の悪さ故、不快感が残る。

 4人の男女の恋愛話だが、それぞれ不幸な過去を抱えていて、そのへんの事情は面白い、と言えば面白いかも知れない。粘つくようなタッチが、不安をあおる。他者に対する微妙な距離感が、4人の嘘くさいお互いの関係を形作る。この小説の描く悪意スレスレの善意は気味が悪い。

 紗雪の嘘と、朋美の嘘。互いの偽った想いやその行動、言動。それらが重なっていきドラマを作る。彼女たちに絡んでくる2人の男たち。紗雪の幼なじみの2人。16年間思い続けた治樹と結婚する紗雪。彼が同性愛者であることを知りながら、である。自分たちの感情を直接ぶつけない。ずっと秘めたまま生きる。想いを秘めたまま結婚する。隠したまま友情を育む。ここにあるのは嘘ばかりだ。嘘の自分を人に向け、自分らしさをアピールする。

 29歳の結婚だなんて、今時テーマにすらならないような陳腐な問題だろう。作者は別にそんなことにはこだわってない。朋美という常識人が、結婚を焦る気持ちを冷ややかに見つめる。だが、バカにするのではない。彼女にとって切実な問題なのは確かなのだ。そんな彼女を作者は最後に大変身させる。事件を通して自分が拘っていたことのくだらなさに気付く。彼女を小馬鹿にしていた周囲の人々は反対に彼女に突き放されることになる。

 誰もが弱い心を覆い隠して強がって生きている。自分の性癖に自信を持てなかったり、おどおどしたりして、そのくせ人を見下したり、なんだかイライラさせられる。ここに出てくる奴らだ。だが、このイライラは本当はこの小説を実に魅力的に彩る。

 僕はこの小説は、嫌いではない。それどころか、どちらかといえば、好きかも知れない。一筋縄ではいかないところが魅力的だ。

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