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映画・演劇のレビュー

『ショートターム』

2014-11-17 22:56:56 | 映画

ここは虐待を受けた子供たちの避難所。家族から惨い目にあい、行き場を無くした18歳までの児童を預かる施設。これはそこでの職員たちと子供たちとの交流を描く映画だ。でも、これ見よがしの心温まる物語ではない。それどころか、描かれることは、どこまでも悲惨だ。

彼らが抱える闇の深さに愕然とする。簡単には心を開いてくれない。ここの職員たちの中にもまた、かつて虐待を受けてきた人たちがたくさんいる。自分のような不幸な目にあわせたくない、という切なる願いからこの仕事に従事している。でも、組織自体は、お役者仕事だから、彼らの努力は報われない。外から時々やってくるセラピストや、医者たちのくだらない判断で、子供たちはまた、惨い目にあわされることになる。そんな事態もままある。家族と一緒にいられることが一番の幸福、だなんて、一体誰が決めたのか。現実を見ることもなく、ただの理想論を振り回す大人たちのエゴ。

この施設がシェルターなのではない。反対に子供たちは機会があればここを抜けだそうとする。脱走は日常茶飯事だ。そんな時、職員は当然彼らを追いかけるのだが、施設を一歩でも出たなら、彼らは子供たちに触れられないというルールがある。保護されている彼ら子供たちの自由が保障されているからだ。ここは強制収容所ではない。自分の意思で入所した。だから、出ることも自分の意思で可能なのだ。だが、飛び出したからといって、彼らには行く当てもない。そんなものがあるのならば、最初からここにはこなかった。

行く場所がないから、ここに留まるしかない。そんな子供たちと、ここで働く大人たちとのドラマだ。ドキュメンタリータッチで描かれるさまざまなできごと。そのひとつひとつに一喜一憂する。いいことも、つらいことも、同じようにある。根気強く接するしかない。報われない。でも、粘り強く接する。彼らの苦しみを少しでも和らげたい。

映画を見ながら、彼らの痛みを肌で感じる。見ているだけでこんなにも痛い。かわいそうな子供たち、だなんて思わない。そんなふうに思うこと自体が彼らへの冒涜だ。ただひたすら耐える。いつか、痛みは和らいで、幸せになる。そんな日を夢見る。映画は、冒頭のエピソードとラストが呼応するというよくある構成になっている。ラストシークエンスが始まった時、すぐにわかる。また、誰かが脱走する。でも、そういうここでの日常が愛おしいものとなる。

彼らはやがて、ここから出ていく。未来へと。そこには何が待ち受けているか、わからない。決して幸福なことばかりではない。だが、彼らは怯まない。少しずつ、大人になる。絶対に幸せになるから。



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