習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

住野よる『恋とそれとあと全部』

2023-04-26 10:04:00 | その他

高校生の男の子と女の子がたったふたりで夏休み4日間の旅に出るというお話。ふたりで田舎の彼女のおじいちゃん家に行く。亡くなった叔父さんの死について叔父を聞くために。

一応ラブストーリーなんだが、少しよくある恋愛ものとは違う。ふたりは死者の理由を求める。だからこれは甘い恋物語ではなく、子供たちが「死」というものと向き合う小説なのだ。夏のバカンス、という色どりの中に、死ぬほどの苦しみという問題がある。好きな女の子とふたりでお泊りの4日間。もちろんそこには性的な匂いは皆無だ。高校生だけど、まるで小学生のようなピュアさがある。だから、興味本位ではなく本気で死というものと向き合える。同時に4日間の旅を通してふたりの距離が縮まるというちゃんとした恋物語の側面も描かれる。

自殺した叔父さんの奥さんや娘さんに話を聞く、なんていう不謹慎なお願いが聞き届けられる。どうしてそんなことをするのか、彼女自身も自分の心がわからない。きっとそこには漠然とした不安があるのだろう。彼女たちはたぶん17歳の高校生。彼はただ彼女が好きで、彼女と一緒にいたかっただけ。
 
祖父が夜に発作を起こして救急車を呼ぶ。観念でしかなかったのに、いきなりリアルな「死」が目の前でチラつくことになる。大事には至らないけど、死はふたりにリアルに迫る。だが着地点がよくは見えないまま、小説も旅も終わる。

どうしてこんな旅に出たのか。でも、そのわからなさにつまらない理由をつけないのはいい。曖昧だけど、それでいい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 行成薫『できたてごはんを君に』 | トップ | 『ぬいぐるみとしゃべる人は... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。