今流行りのご飯小説だ。(流行りの、と書いたがその真偽は知らない。ただ最近僕が読んでいる本が食をテーマにした作品ばかりだったからそう書いてしまっただけ)映画『名もなき世界のエンドロール』の作者の新刊。彼女の(彼?)の小説は初めて読むのだが、心地よいハートウォーミングで、読みやすい短編連作。と最初は思った。
だけど読んでいるうちにこれは思いがけない傑作だということに気付く。構成もまた見事で、最終話を読み終えた時、涙が出てきた。参った。暖かいだけでなく、完璧。
扱う料理が、カツ丼、カレー、ラーメン、パンと定番のものばかり。誰もが大好きなありふれたもの。だからこそ一番大事なもの。そんなものを題材にして、料理人が腕を奮う。それぞれのお話がとてもよく出来ていて泣ける。短編というより中編くらいのボリュームがある。だから読み応えも充分あり。そこからはしっかり彼らの人生が伝わる。
減量中のボクサーが食べた最高のカツ丼。キッチンカーからスタートしてお店を開くロコモコ店主が嵌るスパイスカレー。人気のラーメン店の店主の死から店を引き継ぐ若い女性の作る新しいラーメン。小麦アレルギーの女の子のために作る美味しい米粉パン。
それぞれの想いが食べた人に伝わっていく。食は想いだ。美味しいは幸せ。「食べるために生きている」か。なかなかいいこと言うな。「生きるために食べる」のではなく。4つの独立した短編とブリッジに5つの連作ショートショート。繋ぎはデリバリの配達員のエピソード。そのすべてがひとつになっていくラストのハッピーバースデーのシーンから、エピローグまで。お見事です。