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映画・演劇のレビュー

『ゆるせない 逢いたい』

2015-08-06 08:35:18 | 映画
孤独な少女が、ひとりの青年と出逢う。お互いに好意を抱き、付き合う。でも、彼女は母親に知られたくない。厳格な母は彼との付き合いを許すわけもないからだ。ひっそりと、隠れるようにデートを重ねる。こういうラブストーリーはどこにでもある。

だが、この映画が、それらとは一線を画するのは、ほんのちょっとした行き違いから、とんでもない事態を招いてしまうことだ。不可抗力ではない。明らかに過ちであり、暴走だ。だが、10代の少年の暴走は時としてこんなふうに、歯止めが利かない。結果、すべてをダメにする。もっと上手く立ち回れたなら、幸せになれたはずだ。でも、もう一生会えない。

 映画は、気負うことなく、静かなタッチで、この事件の顛末を描いていく。監督の金井純一は、少年少女の痛みを的確な距離を置いてドキュメンタリーのように見せる。彼女の側からすべてを描くから少年の心情は描かれない。いきなりレイプに至る彼の心情は理解できない人もいるだろう。だが、彼女から連絡が途絶え、自分の何が悪かったのかも知らされず悶々としていたのだ。好きだ、という衝動を抑えきれず、瞬間的に暴力に至る事実を道徳的に否定しても仕方がない。そんなことは彼にだってわかっている。なのに、抑えきれなかったのだ。冷静に考えるまでもなく、それは犯罪だ。大好きな彼女を傷つける。自分が一番望まないことをする。瞬間悪魔になった彼の本能が、本当の彼を駆逐する瞬間。すべて、が終わる。

孤独な心情を抱きあい、逢うことで、話すことで、こんなにも、心が和んで、誰よりも、何よりも大切で、なのに、失いたくないという傲慢さが、一番やるべきではない本能的な行為に至らしめる。こっと、この後、ずっと自分を責める想いが彼を支配する。取り返しがつかない。映画はそんな彼をほとんど描かない。事件の後、彼は映画からしばらく姿を消す。

映画はその後の彼女の痛みを追う。しかも、感情的にはならない。静かに誰にも気付かれないように、学校生活を送る。親友にも言えない。でも、苦しい。親友である彼女にしか、ぶつけられない。そんなふたりの少女の無言のやり取りが実にいい。川で自分を罰するようにびしょ濡れになるシーンが痛ましい。彼を追いつめたのは、自分かもしれない、と思う。だが、彼女は悪くない。それも事実だ。心を開けない母(父に事故死が原因なのだろう)が「あなたは悪くない」と言いきってくれたこと。その言葉に救われた、と彼女は言う。それはそれで真実であろう。でも、今でも母を憎む。自分を縛る母親のせいでこんなことになったのだ、と。

もう、二度と逢えない。同じ街に住み、顔を合せることがあろうとも。映画は、少年、少女の衝動と痛みを丁寧に描ききった。ぜひ、この映画を若い子供たちに見て貰いたい。大ヒットした『アオハライド』や『ビリギャル』もいいけど、この小さな目立たない映画も10代の青春を描いた貴重な作品だと思う。


大人なら、それくらい、と言う人もいるかもしれない。(そんな奴は信じない!)だが、この痛みは一生残る。後悔しても、どうにもならない。この痛みを乗り越えて大人になるしかない。

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