習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『HOME 愛しの座敷わらし』

2012-05-16 22:17:02 | 映画
 原作を読んだ時には、とても素敵な気分になれた。ほんのちょっとだけれど、現実から抜け出して夢の世界に誘われた。煩わしい都会から遠く離れて、岩手の田舎の村での生活を満喫させられた。築100年の藁ぶき屋根の大きな家で、暮らす。ここには何もないけど、ここでの暮らしのひとつひとつが新鮮な驚きに満ちている。そして、その家にはなんと可愛い座敷わらしがいて、家族はそのシャイな女の子と少しずつ友だちになる。正直言ってかなりあざとい小説だ、と思った。しかし、まぁ、時間つぶしのつもりで、いつものように電車の往復に読んでいたのだが、やがて、こののんびりした時間の流れに染まってしまった。ゆっくりと先を急がずにこの小説を読む。そんな3日間は至福に時間だった記憶がある。

 で、その小説が今頃になって映画化である。水谷豊と安田成美主演。監督は和泉聖治。これは和泉聖治監督にとっては久々の普通の劇映画となる。なんでもありの彼だから、こういうホームドラマも得意なのだ。久々の映画になった『相棒』2作品は、TVの映画化作品なので、純粋な映画とは言えない。それだけにこの映画には期待した。プログラムピクチャーの香りを漂わせる懐かしい映画になるのではないか、と思ったからだ。

 だが、結論を先に言うと、惜しいけど、これは失敗作だ。この魅力的な家で暮らす彼ら家族のゆったりした時間の流れが描ききれない。だから、どれだけ丁寧に作っても、これではダイジェストにしかならない。エピソードのひとつひとつが尻切れトンボだし。何もないシーンがない。すべて説明になる。お話で見せてしまうからだ。この作品の魅力は、ちまちました話なんかではない。父親の会社のことも、妻の近所付き合いのことも、子どもたちの学校の話も、おばあちゃんの認知症の兆候も、簡単でいいのだ。ここで必要なことは、この古くて大きな家で過ごす時間、ただそれだけなのだ。それをどれだけちゃんと見せきれたか、そこに成否はかかるのである。 

 それでもロケーションがすばらしいし、この圧倒的な風景の魅力だけで、満足した。なんて優しい田園風景だろうか。しかもキャスティングも理想的だ。家族の5人を中心にしたドラマに絞り込んだのもいい。だからこそ、彼らのここでの生活をただ丁寧に見せるだけでこの映画は成功するはずだったのだ。だが、あまりにあれこれエピソードを盛り込み過ぎた。それは小説でなら可能なことなのだが、映画は全体を2時間程度にまとめなければならないから、こんなにもエピソードを欲張り過ぎてはいけない。なのに、映画は原作の全部を見せようとした。その結果、話の展開が早くなりすぎて、余白のない慌ただしいものとなったのである。もったいない話だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ダークシャドウ』 | トップ | 『ル・アーブルの靴みがき』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。