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映画・演劇のレビュー

態変『ファン・ウンド潜伏記』

2011-01-19 21:23:57 | 演劇
 まるで夢を見ているような時間だった。心地よいリズムに酔いしれながら、ファン・ウンドの50年に渡る人生をたどっていく。その時この壮大な叙事詩が一瞬の夢に思える。これは波瀾に富んだ歴史絵巻なのだが、そんな彼の生涯を追いかけていくこの物語(と呼ぶにはあまりに淡すぎるのだが)は、とても静かで、内容の激しさとはまるで対照的なのだ。

 当日パンフには丁寧にこのドラマのストーリーとなる部分の解説がなされてあるが、これを読まずに芝居を見た方がおもしろいのではないか。ただし態変を初めて見る人は大いに戸惑うことになるだろう。ここには一体何が描かれているのか、それすらもわからないかもしれない。きっと理解に苦しむはずだ。でもそれでいい。

 セリフもないし、的確な状況説明もなされないままシーンが展開していき、その圧倒的なインパクトに打ちのめされるはずだ。そこが態変の魅力なのだ。だが、それについていけない人は、もうその地点でこの作品を放棄することになるかもしれない。だが、この迫力に引き込まれ、舞台に釘付けされ、そこから目が離せないまま見守り続けるうちに、この魂のドラマはしっかりと観客の心の中に落ちていくことになる。

 これは理屈ではない。この魂のせめぎ合いを受け止めていくだけでよい。今回はこれでもソフィスティケートされて、見やすい芝居となっていたはずだ。音響と照明によってちゃんと道筋がつけられてあるからである。だが、そのせいで前回にはあったダイナミズムが幾分薄れている気もする。あの荒々しいタッチは、野外劇であったことも影響しているが、今回の静寂は、金満里さんがあれから少し時間を置いたことで、前回以上にファン・ウンドと適切な距離を取ることが可能になったことで生じたものだろう。

 何も考えずにこの舞台の提示するものを見守り続ければいい。その後で、ゆっくりパンフにあるあらすじを読んでその意味を確認すればいい。この圧倒的なエネルギーをしっかり受け止めよ。

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