ほぼひとり暮らしの89歳の老女ソヨミ。その夜の添い寝をするというバイトをする19歳の女の子、茜。このふたりの話。
ソヨミは孫が同居しているようだから、ひとりではないけど、茜は会ったことはない。二世帯住宅で、定年退職して悠々自適の暮らしをする息子夫婦もいる。だが、一切登場しない。彼らは一年中旅行三昧らしい。ということは家族はちゃんといる。何不自由ない、はず。なのに他人に添い寝を求めている。
茜は横で寝てあげる。朝一緒にご飯を食べてあげる。それだけで1回3000円。大学受験に失敗し浪人中。(必ずしも浪人というわけではないみたいだが)映画が好きで、芸大に行きたいが、父はリストラに遭い、引きこもり中。この割のいいバイトをして漠然と暮らしている。
ここで描かれる19歳の時間は今ではもう過去の話で、そこにさらに過去の高校時代(修学旅行の京都での時間)と10年後の現代の時間が交錯する。89歳のソヨミさんは昔別れたままの友人に会いたいと望んでいる。ソヨミさんは興信所を使い、貧しくて身売りし辛酸を舐めたという消息不明のフキさんを探し当てた。茜さんは彼女を連れてくる仕事を引き受けた。後半は盛岡市まで向かう話になる。
これはなんだか不思議な話で、現実感が希薄だ。まるで夢を見ているような感触が残る。10数年後の今という時間からあの頃を見つめている。彼女は今29歳。今もふらふらした毎日を過ごしているようだ。ソヨミさんは当然もうこの世にはいない。