なんだこの妄想地獄は。最初の『食書』を読んだ時、唖然として、次の『耳もぐり』では呆れて、3つ目の『喪色記』を読んでいる時には、同じパターンにうんざりして読みながらも「これはもういいか」と思っていたのに、やはり次の『柔らかなところに帰る』も読んでしまう。こうなると仕方ない。「最後まで付き合うしかないな」と諦めた。嫌いではないけど、好きじゃない。かなりエグいしグロいし、くどい。(幾分エロだがポルノではもちろんない)
これが好きな人は、たまらない小説なのだろうが、僕は別の意味でこれは堪らなかった。不快なのである。だけどそこから目が離せない。
鍵のかかっていない多目的用トイレで本を食べている40がらみの女に導かれ、本を食べてしまい、病みつきになる。トイレのドアの先、いきなりそんな光景と出会うと恐怖で体が震えてしまうことだろう。異界への入り口はあちこちにある。耳、目、鼻。豊満な身体。人体のパーツがクローズアップして迫ってくる。悪夢の扉はどこからでも開く。
農場、宗教施設と続いて最後は裸婦の絵画展。誘い込まれて、取り込まれる。安部公房を思わせる世界観だが、もっと生理的なもので世界は狭くて暗い。これはあまり関わり合いたくないタイプの小説だ。
電車の中で裸男が登場して、それが広がっていく。街中がゾンビだらけのように裸の男女で溢れ返る最後の『裸婦と裸夫』は圧巻である。悪夢はここに極まれる。7つの粘着質の妄想地獄に絡め取られてしまう。やばい。