女性だけの公演である「猫組」に続いて、男性ばかり5人で演じる「鼠組」も見た。同じ作品を同じ演出で見せるのだが、微妙に違うものになる。その差が面白い。
向こうが女性7人に対してこちらは5人である。そのぶん各役者への負担は大きくなる。そのとばっちりを一番に食らったのが、澤田誠だ。なんと彼はお岩をはじめ9役も演じることになった。終演後、ロビーで澤田さんに会ったけど、涼しい顔をしていた。あれだけの芝居をしながら、なんともいいようのない余裕。そうでなくては、この作品は成立しない。
見る前は、もっと汗臭い芝居になっているのではないか、と思っていた。女性版と較べると、きっと泥臭くて暑苦しい芝居になっている、なんていう僕の要らぬ心配をよそにして、とてもさらりとした作品になっている。それは女性版を見た時の印象と近い。クールな芝居でなくてはならない。そこが演出の意図だ。豪快なピカレスクロマンではない。
冷静な現状認識と、でも逆らいきれない運命のドラマだ。伊右衛門という男をどうとらえるかで、作品の方向性はいかようにもなる。欲望の赴くまま生きるようにみせて、ただ流されるまま生きている。そんな彼の弱さを肯定も否定もしない。古藤望は一歩間違えばただの卑屈な男として見えてしまう、そのギリギリのところで伊右衛門を演じた。
男ばかりで演じたにもかかわらず、ちゃんとクールで、しかもバカげた殺戮の連鎖を滑稽にならず、見せきったのも見事だ。感情に流されるのではなく、事実をしっかり見据えて彼らのたどった運命を見守る。そんな笠井さんの演出意図が確かに実現している。