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映画・演劇のレビュー

『マイ・サンシャイン』

2020-04-18 12:47:21 | 映画

この映画の原題は『KINGS』だ。それがなぜか(日本の映画会社の宣伝戦略のためだが)ホームドラマのようなポスタ-と『マイ・サンシャイン』なんていう甘いタイトルに変えられ、この映画の描く92年に起きたロサンゼルス暴動の凄まじさは前面には出ない。

だが、映画自体はそんな生易しいものではない。たった87分の短い映画の中で、さまざまな要素や状況がぎゅうぎゅう詰めにされている。衝撃に1作である。

どうしてこんなことになるのか、わけのわからないまま、騒動に巻きこまれ、何の罪もないのに、警察に手錠をかけられたり、死んでいく。大人たちでもその不条理にパニックになる。そんな中、子供たちは今何が生きているのか、分からないし、考えもつかないまま、この暴動のただなかに放り込まれ、右往左往する。暴徒と化した人たちはスーパーから自由にものを盗み出し、こどもたちもそれに追随し、TVのアナからインタビューされ、TVに映り、興奮し、警察が発砲し、事故が起き、暴動はあちらこちらへと拡散していく。警察だけではなく、みんながパニックに陥っている。

この暴動のきっかけとなった事件の被害者であるロドニー・キング(警官4人から暴行され殺される)とキング牧師からタイトルは取られているようだが、「キングたち」とはこの町で差別され、虐げられた黒人たちでもある。監督は『裸足の季節』でデビューした女性監督、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン。冒頭の驚きの展開。その後の主人公の過程を描く前半の繊細さと、後半の暴動シーンの生々しいドキュメンタリータッチの融合。混沌したまま、映画は唐突に終わる。

何が何だかわからないのは僕たち以上にこの映画の主人公たちであろう。2大スターであるハル・ベリーとダニエル・クレイグは主人公ではない。主役は彼らの周囲にいる子供たちである。無邪気な幼い少年少女や、物心ついた青年には程遠い少年少女。彼らがこの暴動に巻き込まれ、その渦のなかで、狂喜し恐怖する。同じように女性監督であるキャスリン・ビグロ-の『デトロイト』を思い出した。どちらも暴動を描いた映画だが、どちらも男の撮る映画ではない。

パニックに陥る人々の姿を子供たちの視点から生々しく描くこの映画は、ジャンル映画に収まらない特異な映画だ。随所に挿入される俯瞰で街をとらえるショットが、この映画の姿勢だ。今ここで何かが起きている。それを僕たちは唖然として見るしかない。当事者ではないけど、まるでそこにいるかのような生々しさ。凄いものを見た、というしかない。

 


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