全身少女漫画の世界で、もちろん自覚している。作り手も、登場人物である主人公自身も。自覚症状があるから、この世界を大事にするし、嘘のないように夢の世界を紡ぎあげる。嘘だろ、という設定をどこまでも大事にして、彼女の夢の実現のために全力を注ぎこむ。あと1年の命、という少女漫画のような、冗談のような運命を真摯に受け入れて、そこで何ができるのか、何がしたいのかを、考える。
中条あやみ演じる薄幸の美少女、という設定、そこはまず主人公の第一条件だろう。そこに絵にかいたような男性が現れて恋が始まる。彼女はささやかな夢をひとつひとつ彼を通して実現していく。悔いのない人生を送るために。
100万円で1か月恋人を演じてもらいたい、というとんでもない要求。彼はそれを引き受ける。彼女が何者で、なぜそんな条件をつきつけるのかもわからないまま。お金のせいではない、とは言い切れないけど、それだけではない。たった1か月。4回のデートですべてを終える。彼女は多くは望まない。
死んでいく前にしたいことを書き出す。今まで生きてきて誰とも付き合ったことはなかった。恋も知らないまま死ぬのは嫌。仕事も辞めて、残された時間を精一杯生きるため。でも、何をすればいいのかわからない。偶然の出会い。再会。そんな映画ならではの展開は、お約束だ。そこからどう展開させていくのかが監督と脚本家の腕の見せ所なのだが実にうまい。『羊と鋼の森』『orange オレンジ』の橋本光二郎監督と『いま、会いにゆきます』『8年越しの花嫁』の脚本家岡田惠和がタッグを組む。ふたりは最強だ。バカバカしいと一蹴されそうなお話を全力で見せきる。そこには迷いはない。こんなにもベタベタのお話を、こんなにも気持ちよく見せきることができた。これは奇跡だ。
ささやかな夢がひとつずつ実現していき、やがてフィンランドへとつながる。最後の望みを実現した時、もうこれ以上は求めないと、あきらめる。その潔さ。もちろん、そんなのは嘘だ。ほんとは潔くなんかない。でも、どこかでけじめをつけなくてはならないから。それがそこなのだと決意する。
映画はそこでは終われないから、その先はもっと夢の展開(2度目のフィンランドのシーンはいくら何でもやりすぎだけど、ここまでやってしまった以上、やりきるしかない!)を見せるけど、それもまた、この映画のお約束だろう。それでいい。
正直言ってこの映画は最初から最後まで突っ込みどころ満載の映画である。そこに対してひとつひとつ文句を言っていたら、身が持たないだろう。怒りがこみあげるのなら、すぐに見るのをやめればいい。彼らは最初から少女漫画の世界をしているのだから、それを許さない人は退場するしかない。だいたいこれを現実と考えるのはナンセンスだ。映画は夢の出来事で、心地よくその世界に浸ることができたなら、それだけでいい。これはそんな映画なのだ。