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映画・演劇のレビュー

dracom『世界のバイパス』

2006-10-29 09:53:25 | 演劇
 岐阜の大垣で行われた野外バージョンのお話を制作の仁木さんから伺い、とても心惹かれた。筒井くんが音楽隊の2名を引き連れて町の中を移動してゆき、その後ろをお客さんたちがゾロゾロと追いかけていく姿が目に浮かぶ。様々な場所でパフォーマンスを繰り広げる。とても天気のいい1日になんかわからない奴らが街頭を移動しながら不思議なやり取りをするのを、子供たちや、近所のおじさん、おばさんが、暇そうに見てる。そんなのを勝手に想像してた。

 街頭劇というスタイルは、この芝居が見せる【家に帰る】という行為を視覚的に見せるためには、とっても効果的な装置となる。それに引き換えAIホールでの今回の公演は、学校から家への移動という行為を同じところをぐるぐる回るだけで処理しており、そこはつまらない。左手と右手がどういう冒険を繰り広げるのかをロケーションを生かして見せる野外バージョンと比較してこちらは圧倒的に不利である。

 ルリちゃんがお腹痛になり、ひとりでお家に帰らなくてはならなくなった少年の小さな旅が描かれる。いつもなら2人でジャンケンをして帰る道を決めるのだが今日は独りだ。自分の右手と左手でジャンケンをする。いつもの2つの道を辿るひとりの小学生の下校時の運命。

 それにしても、ここまでストーリーラインが明確にされた芝居ってdracomとしては、かってなかったことではないか。しかも、主人公がはっきり示され、彼を中心にして芝居が動いていくなんてのも初めての試みだ。主人公の筒井さんがいろんな人と出会うというスタイルは、野外版のままなのだろうが、ホールですると、これではおとなしすぎて物足りない。

 昨年の傑作『未市民ワイド』に続き、今回もミュージカルスタイルを取っている。例によってメロディーにのらないお経のような歌を歌い始めると、その単調さからますますテンションが下がってくるというパターンは前回通りで、かなり面白いのだが、今回はソロで歌うシーンが多く、歌声が微妙にそろわないというアンサンブルプレイの面白さが削がれたのも物足りない。また、ダンスシーンもほとんどなく、前回の、あのうらぶれた華やかさに対抗できる新機軸もない。

 ストーリーラインを提示しても、それをどんどん裏切っていく、というのはdracomの得意技なのだが(先日見たクロムモリブデンもそれをしてたなぁ)いつもなら、最初からストーリー自体が空中分解していて、その残滓をかき集めることでなんとなく、そのよりどころが見つかる程度なのに、なぜ今回はこんなにもはっきりとした作り方をしたのだろうか。わかりやすいのだけど、それも物足りない。


 物足りないとそればかり、バカみたく書いてる気がするが、それはdracomへの期待の高さゆえなので気にしないでください。芝居はいつもながら笑えるし、大好きです。

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