習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『リトルマンハッタン』

2021-05-09 10:59:45 | 映画

06年のアメリカ映画。こんな映画があったのだ。マーク・レヴィン監督作品。知らない人だ。ネットで調べたけれども、この映画が初めての作品でその後はあまり映画を作っていないみたいだ。何の予備知識もなく、何の期待もなく、つまらなかったらすぐやめるつもりで見始めたのだが、これがとてもかわいくて、素敵なラブストーリーで、すばらしかった。これは『小さな恋のメロディ』に匹敵する秀作だ。こんな作品がほとんど話題になることもなく埋もれていた、だなんて驚きだ。

『卒業』のパロディシーンもあり、作り手が何を目指したのかは明白だ。ウディ・アレンの『マンハッタン』も意識したのだろうか。これもちょっとした街歩き映画にもなっている。DVDの日本版タイトルには『小さな恋のものがたり』というサブタイトルの記載もある。宣伝は明らかに『小さな恋のメロディ』を意識している。

10歳の少年少女のささやかな恋の物語が少年目線で描かれていく。ここにはジョージ・ロイ・ヒルの『リトルロマンス』のような大人目線のわざとらしさはない。どちらかというとジョン・ヒューズに近い。でも、ヒューズはティーンの男女にこだわったがマーク・レヴィンは10歳を大事にした。

彼女を見ているだけでドキドキする。そんな胸のときめきを持て余す。これは何なんだと戸惑う姿が初々しい。そんなの恋じゃないか、と誰だってわかる。でも、彼はわからない。恋が何なのか知らないからだ。もちろん頭ではそんなことちゃんと理解している。でも、体がまだ受け止められない。知らないからだ。彼女と話をする。デートをする。手をつなぐ。キスをする。そんな夢のような展開なのに、メルヘンという感じはしない。なんだかリアルな感触だ。それはあくまでも彼の目線からすべてが描かれるからだろう。だから彼女がほかの男の子と仲よくしてるのを見ると、それだけで、つらくなり、失恋した気分になる。そんな心の揺らぎが丁寧に描かれていく。

彼らが生きる小さな世界で、初めての恋を通して世界が広がっていくさまが彼の目線から描かれるのでこんなにも生き生きした映画になったのだ。メルヘンでもファンタジーでもない。少年の甘酸っぱい恋心のリアルなスケッチだ。ふたりで離婚する父親のための部屋を探しに行くエピソードがいい。自分たちの暮らすテリトリーから離れていくこのちいさな冒険のシーンが素晴らしい。すべてのシーンがキラキラ輝いている。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『江分利満氏の優雅な生活』 | トップ | 『架空OL日記』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。