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映画・演劇のレビュー

あうん堂『宇喜島2丁目蓬莱園』

2013-03-21 19:39:12 | 演劇
 2年9カ月振りのあうん堂だと言う。今まで彼らは毎年必ず1作ずつ、ほぼ同じ時期に新作を上演してきた。だから、今回そんなにも長い空白があったなんて、気付かなかった。確かに、しばらくあうん堂を見ていないよな、とは感じていたけど毎日の生活に追われて、2年9ヶ月が市過ぎていたなんて、思いもしなかった。さまざまな事情から、今回これだけ間が空いた。でも、暢気な僕はそんなことにも気付かないで、いた。恥ずかしい。

 前回の続きとして、今回の作品も見ている。また、いつものように杉山くんと晴佳さんの新作が見られることを、当然のことのように享受している。そのことの有難みをわかってない。なんだか済まない気分になる。いろんなことがあった2人がまた、いつものように二人三脚での芝居作りを見せてくれる。

 ずっと変わらないなんてことはない。でも2人のチームはそんなありえないことを成し遂げてくれる。今回の作品のあまりの起伏のなさが、実はとてつもないことであることにすら、彼らは気付かさない。何も大きな出来事は起こらないままお話は静かに進行していく。ここでの穏やかな日常生活のスケッチが綴られていく。だが、それは何物にも代えられないことなのだ。震災で被災した人たちが暮らす場所。それぞれ病を抱えて、でも、病院に入院できるわけでもなく、身を寄せどころもない人たちを集めて面倒をみている。

 心に抱えた傷は癒されることはない。社会復帰できないまま、ここで過ごす。でも焦らず少しずつ、本来の自分をとり戻れればいい。杉山くんが演じる医者は、ただ穏やかな微笑を浮かべて彼らを見守る。使命感とか、自分に何ができるのか、とか気負うことはない。仕事を終えて帰ってきて、彼らと過ごす。今日もまた、何事もなく、1日が過ぎたことに感謝する。それだけだ。

 小さなドラマならいくらでもある。その繰り返しだ。だが、それらの出来事はすべて何事もない日常へと収斂されていく。そのことの幸福をこの作品は描く。震災で失ったものは計り知れない。だが、今も自分たちは生きている。その事実は尊い。そのことをことさら大声で叫ぶのではない。というか、この作品は何も言わない。言いたいことならたくさんある。でも、今は言わないで、ただ、静かに生きようとする。その彼らの覚悟が美しい。自分も病を抱えながら、認知症の母親の介護をする娘。社会復帰が出来ないまま、ここにある2人の男たち。あきらめるのではなく、何とかしようとしている。彼らの「少しずつ」が、こんなにも愛おしい。


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