習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『カケラ』

2010-05-20 21:46:05 | 映画
 「男とか女とかは関係なくて、ただハルちゃんが好きだから」とリコは言うけど、彼女自身がまるで男には興味がないのなら、その言葉は額面通りには受け止められない。彼女が女の子だから好きだ、ということになるし、その言葉にはリアリティーもない。

 前半はけっこうおもしろかったのだが、後半はただのレズ映画になってしまって、本来ここにあるはずだった普遍性は損なわれる。もちろん普遍性って、これがただの恋愛映画であるということではないはすなのだが。男と女と女によるただの痴話げんかになってしまって、しかも、女同士の恋愛というものを、男女のそれと同じレベルでしか描けないのならつまらない。

 自分の中に足りないものを埋めるために誰かと一緒に居たいと思う。そうすることで得られる安らぎとは何か。好きな人と一緒に居られたならそれだけで幸せと言うけれども、本当のところはどうなのだろうか。この映画の2人はまるで幸せには見えない。

 前半、ハルちゃんが恋人であるくだらない男と一緒にいるところは、もっと幸せに見えないから、まだあれよりはましか、と最初は思ったが、それでもなんだかなぁ、と思う。結局は同じなのだ。こんなにも楽しくなさそうなのって、どういうことか。

 最初の2人の出会いのシーンは印象的だ。リコ(中村映里子)が喫茶店でいきなり声をかけてくる。ハル(満島ひかり)は見知らぬこの女性から声をかけられ驚く。数日後、ハルは渡された携帯番号に電話する。そして2人で会う。リコの家に行く。クリーニング屋をしている自宅に連れてこられて、両親に挨拶し、彼女の部屋に行く。そこで、初めてのキスをする。このなんでもないシーンに、なんだかドキドキした。だが、この緊張感は持続しない。

 平凡な両親、少しぼけた祖母。どこにでもあるような家族の中で育って彼女は何を感じていたのか。彼女の性癖はどこから生じたのか。別にそこを解き明かせだなんて言うのではない。だが、彼女の問題が突き詰められないから映画は中途半端になる。主人公はリコのほうなのに、映画はハルの方から描くからバランスが悪いのだ。

 とってもかわいいハルちゃんに声をかけて、彼女を好きになって、彼女と2人でいると幸せだと思って、でも、越えられない何かがある。ハルちゃんはノーマルだから、女同士の恋愛というものに対して猜疑的だ。どうしてものめり込めない。2人の心の距離と温度差。そこをもう少し丁寧に描いて欲しい。

 ハルが初めてスカートをはく。リコが素直に仲直りをしたいと思う。ふっきれた2人がこれからどうなっていくのか。この映画が描かなくてはならないことは、このラストシーンの後のことではないか。失われた体の一部を作るメディカル・アーティストという仕事はこの映画のテーマととてもうまくリンクしているけど、その設定が生かし切れていない。随所にちりばめられたせっかくのいろんな可能性が、きちんと整理されて提示されないから、散発的な印象としてしか残らない。安藤モモ子監督の描きたかった世界は、ただのイメージにとどまる。1本の映画としてまとまらないもどかしさが、見終えてストレスとして残る。



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