故郷の母親から届く小包。重いその段ボールにはどうでもいいようなものが山盛り入っている。こんなのは東京で買った方が安いのに、というものも入る。わざわざ買ってそれを送ってくれる。米やら野菜やら畑で作ったものに紛れて。困ったな、と思う。おかん、やめてよ、とも。でもそこに込められた母の想いは確かに伝わる。
これはそんな想いを描く6つの短編連作だ。いろんな事情がそこにはある。ひとりひとりおかれた状況はさま . . . 本文を読む
これは辛い映画だ。救いようがない。だけど、あのラストを見ながらここを出発点にしてきっとこのどん底から彼ら家族は這い上がれるのではないと信じる。新しい命が彼らを救うはずだ。そんな想いは甘い感傷でしかないのかもしれないけど、信じたい。一瞬「また自殺するのか」と暗い気持ちになった。でも、走り出した彼は絶対海に身を投げ出さないと思えた。
人はどうしようもない想いを抱えて生きていく。心を病み、仕事を辞め、 . . . 本文を読む
先月から公開中の『MINAMATA』に続いて今度は『ONODA』である。外国映画がこんなふうに日本人や日本で起きた問題を取り上げるなんて今までなかったことだ。しかも合作ではなく前者はアメリカ映画で今回はフランス映画だ。しかも、この映画に至っては全編日本語で、当然日本人キャストである。それだけではなく、今回の2作品はいずれも本格的な作品で、よくある「不思議の国日本」なんていう感じの困った映画にはなっ . . . 本文を読む
『第9地区』や『エリジウム』の監督ニール・ブロムカンプが制作、監督するオーツスタジオによる10話からなる短編集がNetflixで配信されていた。5分から20分ほどの短編で全部見ても2時間ほど。だけど、そのあまりの過激さには驚く。ビジュアル面での充実だけではなく、お話の展開のほうが過激。悪意のある描き方や残虐さ。ブラックユーモアでは括れない。1話目の「ラッカ」には衝撃を受けたがだんだん麻痺してくる。 . . . 本文を読む
最近けっこう重い小説や映画を連打しているので、ここは少し軽めの楽しい恋愛小説でも、と思い、この本を手に取った。あまり期待はしてなかったのだけれど(最初の設定は引いたけど)お話のパターンを受け入れて、読み進めていくうちにこの小説の世界に嵌っていった。期待通りとても読みやすくて楽しく、そかも考えさせられる。とてもいい作品だった。
ラストのまとめ方は少しだけあざといけど、でも、散りばめたピースをすべて . . . 本文を読む
実にタイムリーな企画だと思ったけど、映画はあまりお客が入っていないようだ。残念。総裁選、女性総理の可能性とか、そういうものに大衆は興味ないのだろうか。まぁ、どうでもいいけど。そんなことより原田マハのこの軽い小説が映画化されたことを喜びたい。ずっと前に原作を読んだ時からこういうのが映画になると面白いな、と思っていたので映画化決定の報を聞いて、楽しみにしていた。監督は河合隼人なのでちょっとドキドキした . . . 本文を読む
後半少し甘いな、と思う。ふたりの関係を突き詰めていかず、逃げている気がしたからだ。彼らの抱えてきた現実を徐々に明らかにしていく回想シーンは説明としてはわかりやすい。そこではちゃんと彼女がどういうふうに追い詰められていったのかが丁寧に描かれていく。悲惨すぎて目を覆いたくなる。それはいくらなんでもないのではないか、と思う。逃げ出すべきだ、と誰だって思うはずだ。だけど、彼女は逃げなかった。それでも母親の . . . 本文を読む
タイトルの「由宇子」を書くために、「自由」、「宇宙」と打ち込んで消していった。この名前にはこのふたつの熟語がふさわしい。これは彼女の自由な宇宙のお話だ。でもまるで自由じゃないし、その宇宙は窮屈だ。ままならないことばかりで、ずっと表情は不機嫌なまま。あきらめているわけではないことはわかる。だけど、全く上手くはいかない。彼女はドキュメンタリーのディレクターをしている。今取り組んでいるのは、女子高生と教 . . . 本文を読む
凄い小説に出合えた。たまたま図書館の書棚のかたすみでこれを見つけた。ほんとうにすまなそうに一番下の段の端に斜めになって立てかけてあった。ブックエンド仕様にされていた本だ。新しい本なのに(2018年刊行)あまり誰にも読まれてはいなかったようだ。
このタイトルである。僕はついつい手にしてしまう。表紙のイラストもかわいい。高校生のお話みたいだ。そこで迷わず借りてきた。読み始めて驚く。これは僕たちの高校 . . . 本文を読む
これは『闇の列車、光の旅』の監督としてだけで記憶していたキャリー・ジョージ・フクナガ監督のデビュー作である。3日前念願の彼の新作、というより007の最新作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を見た後、それにしてもなぜフクナガ監督が007にオファーされたのかが気になり、彼のフィルモグラフィを調べたらこの作品が出てきたのでさっそく見ることにしたのだ。2015年作品、2時間17分の大作だ。地味で小さな作 . . . 本文を読む
続々と新作が公開されていく絶好調の瀬々敬久監督最新作。重くて暗い映画だ。2時間14分の大作である。震災と真正面から向き合う力作である。こういう映画がメジャー大作として作られるのは素晴らしい。もちろんオールスターキャストによる社会派ミステリ映画で、堂々たる商業映画だ。低予算のマイナー映画ではない。だけど、観客におもねるただの娯楽映画では断じてない。志の高い力作であり、確かなメッセージを持つ。当然感動 . . . 本文を読む
小林啓一監督の新作。『逆光の頃』を見て注目した。その不思議なテイストは今回の作品にも引き継がれている。主な登場人物はたった6人。しかも二人ずつがペアになっていて、3つのふたりのやり取りが描かれそれらは基本、交錯することはない。だけど、3話からなるオムニバスでもない。この高校の中で過ごす3組の男女の物語。こんなにも関係性が希薄で、お話が交わらないまま2時間続いていくような映画を見たことがない。
映 . . . 本文を読む
大阪の劇団である万博設計と札幌の劇団である清水企画が名古屋の佃典彦の書下ろし新作戯曲を競作して同時上演するという企画。それぞれのホームグランドで2本一緒にこの10月に上演する。まず大阪先行で今週、さらに3週間後には札幌公演。
台本は実にわけのわからないお話で、最初の清水企画版を見たとき、何だったのだろうか、と戸惑うばかり。10分の休憩後、万博設計版を見る。同じ台本だから、さっきほど戸惑うことはな . . . 本文を読む
待ちに待った007の最新作の公開である。コロナのせいで散々な目にあった映画は枚挙にいとまもない。もちろんこの映画もそうだ。何度公開延期の憂き目にあったことか。今回だってほんとうに10月1日の公開されるのか、心配した。だけどなんとか無事に公開されてよかった。もちろん公開初日の朝、見に行ってきた。なんと2時間44分の大作である。シリーズ第25作、そしてダニエル・クレイグによるボンド映画第5作であり、完 . . . 本文を読む
アフタヌーンティーに興味があるわけではないけど、表紙のデザインに惹かれて読み始めた。もちろん古内一絵だから、きっと面白いのだろうことはわかっていたけど、読み始めて期待以上の出来で、手にしたのは正解だったと確信する。
お菓子とお茶だけなのに女のひとたちが(女性だけではないけど)高いお金を出してアフタヌーンティーをを楽しむのは、そこに生まれる心の余裕や贅沢を大切にしたいからだろう。何を大切にするかは . . . 本文を読む