習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

朝倉かすみ『地図とスイッチ』

2022-04-14 12:42:06 | その他
2014年の作品だ。読みながら依然読んでいるのではないか、というよくある疑問が浮かび、2014年から2019年までの記録ノートをひっくり返した。でも、記録はないからたぶん読んではいないのだろう。でも、この既視感はなんだろうか、と不思議に思う。 ふたりの男の40年間を描く。昭和47年9月8日。生まれ日は同じで、同じ病院で生まれた。そんなふたりが主人公。どういう運命が彼らを待ち受け、どんなふうな人生 . . . 本文を読む
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錦見映理子『恋愛の発酵と腐敗について』

2022-04-12 09:49:24 | その他
何なんだこのタイトルは、と思うような味もそっけもないタイトルだ。これでも恋愛小説なのである。恋愛というものの持つ甘い感傷はここには一切ない。読んでいて不快である。でも、これは実に深い小説なのである。だから、止まらない。恋愛における人の感情の研究書と言ってもいい。冷静に人間の行動と対応を追い、その後の対処の仕方についての説明にもなっている。モデルとされるのは、ふたりの女性だ。だから、各章では交互に彼 . . . 本文を読む
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『ミッドウェイ』

2022-04-11 10:56:51 | 映画
1昨年の夏に公開された大作映画である。この手の戦争大作は大事にされ必ずヒットするというのが日本での定番だった。でも、もうそういう時代ではなくなったのだろう。コロナ禍での公開というハンディもあっただろうが、無残な興行となってしまった。ハリウッドの大作映画で、太平洋戦争を描く映画で、日本人キャストが重要な役でキャスティングされている。ただそれだけで注目される時代は終わった。 真面目な映画である。史実 . . . 本文を読む
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澤村伊智『怖ガラセ屋サン』

2022-04-11 10:45:28 | その他
こういうタイプの本は読まない。だけど、なんとなく手に取り、なんとなく借りてしまった。どうしてタイトルが漢字のところ以外をカタカナ表記したんだろうか、とか。作者の名前何て読むんだろうか、とか。どうでもいいようなことが気になった。「伊智」と書いてそのまま「いち」と読ませるらしい。不思議でも何でもないけど、そこが反対に、なんだか変な気分にさせるのだ。 7話からなる短編連作小説である。まぁ、よくあるパタ . . . 本文を読む
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『アポロ10号 1/2  宇宙時代のアドベンチャー』

2022-04-10 10:52:38 | 映画
リチャード・リンクレイター監督の新作である。今回はアニメーション作品だ。彼はこれまでも実写とアニメを織り交ぜて作っているけど、なぜか、どちらもドキュメンタリー・タッチの作品である。実写はともかくアニメでもそう。というか実写というより劇映画ね。インディペンデント映画とハリウッド映画を垣根なく往還する彼だから、実写とアニメでも垣根はないのは当然だろう。でも、これをわざわざどうしてアニメにしたんだろう、 . . . 本文を読む
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木村紅美『まっぷたつの先生』

2022-04-10 10:11:07 | その他
その日、手元に読む本のストックが少なくなったから、図書館をフラフラした。そこで木村紅美の旧作で読んでいない本を発見。2016年作品。手に取る。学校の先生のお話のようだ。まぁ、タイトルがこうなのだから当然だろう。39年続けた仕事を辞めて1年が過ぎる。この春から再び学校に復帰することになった。自分にできる仕事はこれくらいしかないと観念した。 高校が大好きだった。だから大学を出てからすぐに教職に就いた . . . 本文を読む
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『アネット』

2022-04-09 10:47:41 | 映画
レオス・カラックスの久々の新作だ。前作『ホーリー・モーターズ』から10年経つ。その前の『ポーラX』は99年作品だからそこからカウントするともう20年。40年近くのキャリアで長編は6作品。寡作だ。今回の作品はなんとミュージカル。でも、当然、明るく楽しい作品ではない。 映画を見ながら不快になった。途中何度か、眠くなった。(だから少し、居眠りした、たぶん)僕はミュージカルが嫌いだったことを思い出した。 . . . 本文を読む
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川上未映子『春のこわいもの』

2022-04-09 10:42:15 | その他
2年半ぶりの新刊らしい。タイトルの「春のこわいもの」ってコロナのことみたいだ。2020年春、学校が休校になる直前くらいの時間がお話の舞台ではないか。少なくとも5つ目のお話はそうだ。マスクが店頭からなくなり、でも、まだ詳しいことはわからないまま、みんなが疑心暗鬼してきた頃。夜の高校に忍び込み、失くした手紙を探す男女ふたりの高校生。絶対失くすはずのない彼女からの手紙が家に帰るとなかったので。夜の10時 . . . 本文を読む
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『やがて海へと届く』

2022-04-08 12:35:38 | 映画
やがて海へと届く。はたしてそうだろうか。この想いはちゃんと海に届くのか。2011年3月11日。彼女は海を見に行った。ひとり旅で東北の町へ。そして帰ってこない。あれから5年が経つ。助けられなかったことへの悔悟ではない。ただ、心の中にぽっかりと穴があいたまま。時間だけが過ぎていく。どうして彼女は旅に出たのか。何を見たかったのか。ふたりで昔同じように海を見に行ったことがある。夏の日だ。麦藁帽をかぶっては . . . 本文を読む
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『ジオラマボーイとパノラマガール』

2022-04-08 12:23:40 | 映画
瀬田なつき監督の2020年作品。ようやく配信されたので見た。劇場で見逃し、ツタヤでも見逃し(近所のツタヤが閉店した!)、アマゾンでようやく見ることができた。彼女の映画は今まで全部好き。特に『PARKS パークス』が素晴らしい。もちろんデビュー作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』で刮目し、TVだが『セトウツミ』の力の抜け方も素晴らしい。 だけど、今回の岡崎京子のタッチは少し違う気もする。これは岡崎 . . . 本文を読む
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吉野真理子『階段ランナー』

2022-04-08 11:20:15 | その他
「京都駅大階段駆け上がり大会」なんていうマイナーな競技を取り上げて、ふたりの高校生の2年間を見事に切り取る。お話は高校2年の3月から始まり、卒業までの1年間が背景だ。母親の薬物使用のため高校で水泳をあきらめた男の子、広夢と、イップスになり卓球をあきらめることになる女の子、瑠衣。そんなふたりがたまたま校舎の屋上から飛び降り自殺をしようとしていた(わけではないけど、ふたりにはそういうふうに見えた!)先 . . . 本文を読む
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劇団往来『マクベス』

2022-04-05 12:20:13 | 演劇
昨年の『ヴェニスの商人』はとてもよかった。題材自体も往来のテイストに近いから無理なく作られていた。だが今回はシェイクスピア4大悲劇の一つ『マクベス』である。コミカルに仕立てるのではなく、シリアスで押し通すことになる。その重圧に耐えられるのか。その辺が成否のポイントになるだろう。 残念だが、失敗だ。最大の問題点は役者たちの芝居に幅がでなかったこと。手練れを配して確実に短いシーンでも彼らの芝居だけで . . . 本文を読む
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小野寺史宜『いえ』

2022-04-05 12:13:55 | その他
『ひと』『まち』に続く小野寺史宜の三部作完結編。と、勝手に書いてしまったけど、どうだろうか。このタイトルの付け方は明らかにそういうふうな意図だ。3作は別々のお話でひらがな2文字タイトルという以外に明確な共通項はない。だが、さりげない日常の積み重ねの先にある「人」の営みが綴られているのは同じだろう。「人」が「町」で暮らし「家」に帰る。そんな当たり前のことを大事に描いていく。 今回は交通事故の後遺症 . . . 本文を読む
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『アダム&アダム』

2022-04-05 10:56:54 | 映画
このタイトルはいただけない。せめて原題通り『アダム・プラン』にすべきだった。もっと大作感のあるタイトルがいい。これではあまりに軽くなりすぎるのだ。この映画はよくあるファミリーピクチャーに分類されて軽く扱われるのにはあまりに惜しい出来なのだ。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』や『スターウォーズ』に比肩する傑作、とまでは言わないけど、かなりの完成度を保つ作品である。相変わらずネットフリックス映画恐る . . . 本文を読む
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『ベルファスト』

2022-04-03 10:39:19 | 映画
今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされた作品の中で、この映画が一番好きだ。小さな映画だけど愛おしい。最優秀賞を受賞した『コーダ あいのうた』も同じように小さな町を舞台にした小さな映画だったが、この映画は小さいだけでなく、そこに懐古趣味のノスタルジアが前面に押し出され、世界が狭い。そこが欠陥だ。だけど、そんな欠点を補って余りあるのはここに描かれる優しさだ。少年を包み込む愛。この町で生きることの喜び . . . 本文を読む
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