この本の全編を彩る鮮やかなカラーイラスト(大桃洋祐)の人物にはなぜか鼻はあるけど口がない。そんなささいなことがなぜか気になった。この本のタイトルは「おしゃべり」な部屋、なんだけど、と思いつつ、でも部屋には口はないよな、とも思う。
主人公のミコは依頼された部屋の片づけをする、という仕事をしている。そこでいろんな部屋と出会う。ここでは7つのエピソードが描かれていく。短編連作である。川村元気によるこの . . . 本文を読む
『チタン』を見た後、ハシゴでこの映画を見るなんて、自分で言うのもなんだが変態的だ。2本見た後、さすがにぐったりした。映画としては先に見た『チタン』の衝撃が大きすぎてこの映画では太刀打ちできない。単体でこれを見ていたら、なかなか面白いという評価も出来たのだろうが、今は、それほど面白いとは書けそうにない。
もっと繊細な映画ならよかったのだが、そうではない。えげつないホラーでもない。では、中途半端な映 . . . 本文を読む
あのコンチャロフスキー監督の力作『親愛なる同志たちへ』の後で見るから、どうしても点が辛くなりそうだ。これもまた同じようにロシアの愚行を描く映画である。2000年にロシアで起きた原子力潜水艦事故が描かれる。すべてをウクライナ問題と重ねてしまうのはどうだか、とも思うけど、ついついそういうふうになる。(それにこれは2018年作品だし)、ロシアひどい、という感じ。このご時世、どうしてもそういうところから受 . . . 本文を読む
先日ようやく(この映画を見るために)見た『ニワトリ★スター』の続編。というより、姉妹編。でも、タイトルにある「星」の色に象徴されるように、この2本は表裏一体の関係にある。ネガ・ポジ状態なのだ。今回は重くて暗くて悲しかった前作とは違い、明るくて楽しくて(レコードならA面で、だからこれが表面であろう)彼らにとっての「理想」が描かれる夢物語である。(だから、あの前作は「現実」だったのだ、と改めて気づく) . . . 本文を読む
2021年カンヌ映画祭で『チタン』の次点(パルムドールではなくグランプリ)に屈したイランの巨匠アスガー・ファルハディ監督作品。さすがにあの『チタン』と並べたら、衝撃度は低い。でも、別の意味でこれがファルハディ映画なのか、というような軽妙な展開だ。SNSを題材にしたというのも彼の映画らしくはない(と、勝手な思い込みをする)。今まで重厚な作品で僕たちを魅了してきた彼が、相変わらずの社会派ではあるけれど . . . 本文を読む
2021年カンヌ映画祭パルムドール受賞作品である。壮絶な映画で唖然とさせられる。こういう作品に最優秀賞を平然と与えるカンヌは凄い。映画を見ながら、これは一体何なんだ、という驚きが最後まで続く。ふつうなら最後には納得するような納めどころが用意されるのだろうが、最初から最後までそんなチャチなものはない。平然と変態的なドラマが、堂々と綴られていく。しかも、お話には一貫性がない。場渡り的で刹那的。どんなふ . . . 本文を読む
どうして1時間なのだろうか。これはとても面白い設定の作品なのだ。なのに中途半端に1時間で完結する。なんだかもったいない話だ。そう言えば、最近の神原作品には長編がない。コロナのせいで腰を据えて作品作りができないということも原因のひとつであることは明白だが、たぶんそれだけではない。では、なぜ1時間? 彼女の中にある焦りが原因なのか。まだまだ作りたいものがある。そんな想いが溢れてくる。
コロナが始まり . . . 本文を読む
空港を舞台にした短編連作だ。ひとつのエピソードが80ページほどなので中編と呼んでもいい。とても素敵な作品で読みながら、何度も泣きそうになった。1つ目のお話は、自信をなくして帰郷する「若者」が主人公だ。30代後半になり、漫画家として成功しているにもかかわらず、自分が壊れていく気がした。もうこれ以上漫画は描けない。「ヒーローもの」が描きたかったのに、挫折して、今は不本意ながら料亭を舞台にした作品を描い . . . 本文を読む
『ニワトリ☆フェニックス』を見ようかと思ったけど、そういえばまだ、このチームによる前作『ニワトリ★スター』を見てないやん、と気づき、さっそく見ることにした。見始めて驚いた。「なんなんだ、このむちゃくちゃは!」と。こんな映画だとは思いもしなかった。しかも2時間15分の長尺。井浦新と成田凌が主演するロードムービーだと思っていた。いや、それは『ニワトリ☆フェニックス』のほうか。前作であるこちらは現代版『 . . . 本文を読む
つらい映画ばかり見ている。映画としては素晴らしいかもしれないけど、暗澹たる気分になるばかりだ。『親愛なる同志たちへ』を見た後、続けてこの映画を見た。スケジュールの関係でそうなったのだけど、この日、落ち込んだ。どちらもいい映画だったけど、この2本のはしごはなかろう。そこにはまるで救いがない。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ演じる青年がどうしてこんな愚行に及んだのかが、ドキュメンタリータッチで綴ら . . . 本文を読む
アンドレイ・コンチャロフスキーの新作だ。彼の映画が公開されるなんて、久しぶりのことではないか。ウクライナでの戦争が起こり、ロシアのとんでもない侵略が始まった今、この映画が描く1962年は遠い過去の出来事ではなく、今のロシアと重なり合う。84歳の巨匠が2020年に作った映画がこうして今の時代を撃つ作品として、公開されている。ヒトラーやプーチンという独裁者はいつの時代にもいる。過去の悲惨な歴史を描くの . . . 本文を読む
『毎日世界が生きづらい』に続く新作だが、今回も重くて暗い。ビルの屋上から落ちて(たぶん、自殺して)いまだ意識のない状態が続く妹のために帰郷した姉。妹に何があったのか。彼女を追い詰めたものはなんだったのか。容姿がかわいい妹をタレントにするため母親は東京に出てふたりで暮らした。母親の呪縛から逃れられない姉妹と、父親。どこにでもありそうな4人家族のはずだったのに、どうしようもない状態に陥る。妹ばかりをか . . . 本文を読む
城定秀夫の新作だ。先月公開の新作『愛なのに』に続いて2が月連続で一般映画のフィールドに登場する。彼はピンク映画界では気を吐いていたようだが、まだ一般映画では傑作をものにはしていない。それだけに今回の作品はそんな彼のちょっとした勝負作だったのではないか。(僕は『アルプススタンドのはしの方』は買わない)これは彼の力量が問われる作品だ。
さて、そんな本作なのだが、お話はとんでもない設定で、とてもじゃな . . . 本文を読む
これにはやられた。読みながら、こういうことを今語られるのか、と。これを読んだのは、たまたま、である。このたまたまは痛い。どんな話かも知らずに読み始めた。そして圧倒された。ひとりの女の一代記である。でも壮大なクロニクルでも大河ドラマではない。これはただの平凡な日々のスケッチだ。
不意をつかれた。だからこのたまたまは痛い。ここまで感情移入させられるとは思いもしなかった。認知症の老婆が主人公だ。デイサ . . . 本文を読む
たまたまだけど、『地図とスイッチ』を読んだ直後に見た映画がこれだ。大好きな瀬々敬久監督の新作だから、公開されてすぐに見た。内容は不問だ。彼が手掛けた映画、それだけで必見である。でも、今回は少し違和感がある。さすがにこの題材は彼向きではない気がする。
ある夫婦に子供が生まれるところから、始まり、その子が大人になり、結婚もして、やがて子供も生まれる。なんだか先の『地図とスイッチ』との共通点が多い。こ . . . 本文を読む