太宰の『新ハムレット』を早坂彩が舞台化。彼女の芝居を見るのは初めて。作り手の誠実さが作品から溢れていて、素晴らしい。太宰はこれをふざけてパロディにしたのではないことは明白。だから、丁寧に劇化する。あの「戯曲風小説」をちゃんとした戯曲にして上演する。だからオリジナル以上にシリアスな舞台になる。メソメソして泣いてるのはハムレットだけではない。登場するみんながそれぞれ心に秘めて泣く。これはそんな芝居だ。 . . . 本文を読む
今日久しぶりに高校の終業式を見た。この1月から常勤で高校で働いているからだ。たった3年振りなのになんだか懐かしい。40年間毎年3回ずつ(1,2、3学期ね)やってきたことなのに。さて、これは長い歳月を描く小説である。8歳の出会いから10年。1973年、高校3年の終わりに4人で浅間山に登る。まさかの事故が彼らの運命を変える。英次の死が残された3人の人生に大きな影を落とす。そこから始まる32年間の物語。 . . . 本文を読む
この春から孫のレンが小学校に入学する。たまたまだが、これは同世代の子どもと両親の話。お受験である。私学の有名校に入学させるために奮闘する家族。うちのレンはもちろん公立小学校に行くから関係ない。ただ、今の時代こんなバカなことがセレブの家庭では当然のことなのだろうか。公立高校は受験生が減って有名校以外は定員割れが続く。みんな私学の高校に行くからだ。高校受験どころか、小学校受験かぁ、とため息しかない。嫌 . . . 本文を読む
「食にまつわる道具」(じゃないようなものもあるけど)を介して人生の機微を描く短編集。ほんの些細なことを些細なまま提示するから読み終えた時「あれって何だったのだろう?」と思うこともしばしば。そんな小さな日常のひとコマが9篇続く。あまりにさりげなさすぎるから,ゆっくり1篇ずつ時間を空けて読むことにした。一気読みはもったいない。
僕は、幼児が初めてひとりで家を出て近所のおばあちゃんのと . . . 本文を読む
シリーズの第4作。連句を中心にしっかり据えて連句会とブックカフェでの仕事を通して一葉が少しずつ成長していく姿を描く連作。6話からなる。
前作は読んでいるし、これだって既視感がある。もしかして以前もう読んでいるか、と一瞬思ったがいくらなんでも昨年9月に出た本を読んでいて、もう忘れているはずはない。だいたいこれは4冊目だけどその内何冊を読んだのかも覚えていない。
これは . . . 本文を読む
170回芥川賞受賞作品。37歳の女性建築家が主人公。22歳の男性と付き合う。とても綺麗な男の子で、自分から声をかけて付き合うことにした。ママ活だと本人に言われた彼は自然に彼女を受け入れる。恋人役ではなくパートナーとして付き合う。
4年後。トウキョーシンパシータワーは完成して彼は刑務官(シンパシースト)としてタワーに勤務している。タワーを設計した彼女は仕事を辞めてひっそりと暮らして . . . 本文を読む
久々の森見登美彦の新作である。しかも500ページにも及ばんとする長編。何故かホームズたちは京都に住む。やる気をなくして引きこもりのホームズと彼を引き戻すために奮闘するワトソン。いじけて何もしないホームズが延々と描かれる前半は読んでいてもどかしい。話は遅々として進まない。さらには天才探偵アイリーンが登場して華々しく活躍するし、彼女を支えるのはワトソンの妻であるメアリである。やがてお話は12年前のレイ . . . 本文を読む
昨年評判になった音楽アニメ映画だ。劇場では見逃しているけど、早くも配信が始まったのでようやく見ることができた。期待に違わぬ作品だった。実に憎たらしいくらいに上手い。ジャズ映画をアニメでするなんて無謀なことだろう。だけどその無謀に挑戦して成功した。10代の3人の男の子たちを主人公にしてジャズを描くというさらなる無謀な試みを課して、その上、世界一のサックス奏者を目指すという荒唐無稽な無謀。無謀の三段重 . . . 本文を読む
アイスクリームの「アイス」と「愛す」を懸ける。さらに「愛スクリーム」として「愛の叫び」と懸け合わせる。そこから生じるドラマを作るという思い付きは面白いけど、それを物語として展開出来なかったのは残念だ。哲学的妄想を延々と2時間近く展開していく。
「大好き」という言葉が世界を虚しく駆け巡る、という発想がいいからそこに引っ張られる前半部分は面白いが、後半にはさすがに息切れしてしまう。さらなる展開がない . . . 本文を読む
今年の大阪アジアン映画祭はこの一作だけを見た。監督はまだ若いリエン・ジエンホン(練建宏)。彼のデビュー作らしい。『父の初七日』の監督が共同で脚本に参加。女性の視点を加えて、台中の田舎の村で暮らすひとりの女性の生きざま(「生きざま」とは少し大袈裟だが)を描く。
ロマンス詐欺をお話の中心に据え、弟の結婚や姪の家出も交えて主人公の恋を描く。お話は15歳の姪がひとりで上海からやってくるところから始まる。 . . . 本文を読む
藤井道人監督の新作はNetflix映画。長澤まさみが主演する。彼女を取り囲むのは坂口健太郎、横浜流星、森七菜、寺島しのぶ、田中哲司、リリーフランキーというオールスターキャスト。これはそんな彼らが集う2時間12分の大作映画だ。(Netflix映画だから劇場公開ではなく配信公開だが)3.11の津波に巻き込まれて亡くなった女性が、7歳の息子の安否を気遣う。お話は死んだけどこの世に未練を残す人間が留まる空 . . . 本文を読む
熊澤尚人監督が『虹の女神』以来で上野樹里とコンビを組んで挑むSF映画。SFと言いつつも派手な描写は皆無だ。ある惑星からの移民(惑星難民)を受け入れて人と共存することになった世界の話。彼らは人間と同化してひっそりと暮らすことができる。表面的にはまるで識別できない。しかも人間に擬態した時、自分がエイリアンだという記憶も失う。
アメリカ政府が受け入れに賛成したから日本政府も同意したが、 . . . 本文を読む
35歳。初めての胃検診。バリウムを飲む。本当にあれは嫌だった。毎年1回義務化されている。仕方ないから行くけど。出すなと言われたら、出てしまうゲップに耐えてぐるぐる回されて。そんなことを思い出す。
小説はそこから始まる。就職して13年。いきなり呼び出されてスマイル・コンプライアンス準備室(って何!)に異動を命じられるところから話は始まる。
30代後半を迎えて,自分の人 . . . 本文を読む
まだ30歳、大阪出身の若い作家の初長編作品。彼は第42回小説推理新人賞を受けてデビューし受賞作『その意図は見えなくて』を含む短編集を上梓。これが2冊目の本になる。
高校の文化祭を舞台にした青春小説みたいなので読むことにした。僕は基本推理小説は読まない。これも幾分推理小説みたいなタッチだが、作者の自伝的なドラマが根底にはあるのだろう。誰もが自分だけの高校生活を送っている。そこにはそ . . . 本文を読む
『家庭用安心坑夫』(改めて見るとやはりこれって凄いタイトルだ。わけがわからないし)の小砂川チトの新作である、あれも芥川賞候補だったが、これも昨年の芥川賞候補になったらしい。(受賞したかは知らない)そして今回もとんでもない設定の作品である。
動物園の類人猿ボノボのシネノと引きこもりだったしふみの交流を描くハートウォーミング、かと思ったら、まるで違う。僕は前作のあのわけのわからない世 . . . 本文を読む