太宰の『新ハムレット』を早坂彩が舞台化。彼女の芝居を見るのは初めて。作り手の誠実さが作品から溢れていて、素晴らしい。太宰はこれをふざけてパロディにしたのではないことは明白。だから、丁寧に劇化する。あの「戯曲風小説」をちゃんとした戯曲にして上演する。だからオリジナル以上にシリアスな舞台になる。メソメソして泣いてるのはハムレットだけではない。登場するみんながそれぞれ心に秘めて泣く。これはそんな芝居だ。
まず、舞台美術が美しい。椅子、廊下、階段、家具(引き出し)等を組み合わせた装置はシーンごとにぐるりと回転し、表情を変えながら各場面を形作る。そしてクローヂヤスを演じる太田宏の大仰なリアクションが作品をリードする。もちろん彼だけではなく、登場する誰もがそれそれぞれのメソッドで自己完結する。内省的な芝居は短いシーンがゆっくり連続していくにもかかわらず緊張感が持続する。それぞれが抱えるものが見え隠れする。そこにはストーリーを追いかけるのではなく、感情の揺れが表現されていく。
語り部となる男(太宰)が必要以上に芝居に関与しないのもいい。静かに見守るばかり。最後もハムレットを囲ってみんながやはりそれぞれの方向を見つめる。劇は収斂することなく拡散していく。太宰治の素直な心情世界がシェイクスピアを通して体現されたテキストを通して早坂彩はそれを真摯に自己と向き合う人たちの群像劇として立ち上げた。これは素晴らしい内面世界の吐露である。