作曲家(P)フルジマリ(Vn)ブランデュコフ(Vc)(marston)1894/12/10ロシア録音・CD
比較的有名なシリンダ録音で、チャイコフスキーの肉声らしきもので知られるプーシュキン・ハウス・コレクションのユリウス・ブロック録音の一つである。ソヴィエトによる接収後、その崩壊あと特に秘匿されていたわけではないがこのようなCD集に復刻されることは無かった。チャイコフスキーの肉声に関してはあくまで推定でありこのための日本のドキュメンタリー番組も10年ほど前に民放で放送されているが、時代なりの劣化はあるもののかなり状態のよい現物がみられ、ソヴィエト時代という暗黒史がこの貴重なコレクションについては(恐らく多くをスターリン趣味と合致するロシア民族主義の作曲家や名演奏家のものが占めていたために)プラスに働いていたのかもしれない、西欧にあったなら戦後の混乱や商業利用の結果散逸していた可能性もある。
The Dawn of Recording - The Julius Block Cylinders / Various Artists
アレンスキーのピアノ演奏はこれ以外にも多く収録されている。ほかタネーエフの演奏もあるが自作自演はなく、手堅いアレンスキーの作風が彼ら世代の保守派ピアニストに受けていたことも伺える(単にブロックの人脈的な理由かもしれないが)。アレンスキーにせよタネーエフにせよ比較的短命でこの時期は既に病を得てやっと回復したくらいだ。シリンダー録音の難点は膨らみが無く高音が消えていたり中音域が抜けたり、低音は強調操作可能な程度のようであるが、輪郭だけの音楽に聴こえてしまうところ。病のせいもあるだろうが腕にやや問題があるように思われるアレンスキーの、それでも細かい音符と薄い響きによる繊細なフレーズ(折衷的作曲家として標題含め同時代フランスの影響が感じられる曲も書いている)においては耳を澄ませば極めて密やかで美麗な表現をとっている様子が聞き取れる。ピアノトリオとしてはヴァイオリンの音が殆ど消えている箇所が多くどうにも聴きづらい。ヴィオラ音域ではしっかりアンサンブルしている様子がうかがえ、西欧折衷派としてのチャイコフスキーの影響の強い古風な音楽が欠損はあるが説得力をもって響いてくる。もっとも「偉大な芸術家」の影響は無く無難なプロフェッショナリズムのうちにある曲である。2楽章の丁々発止が聴きものか。この時代のロシアの弦楽奏者のレベルが既に極めて高かったことも知ることのできる貴重な録音。仕方が無いのだが音の悪さで無印。