想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

古代史と恋愛小説

2008-10-20 13:41:58 | 
   旧事は漢文ばかりで、眼がクラクラして辛い時には、
   畑違いの恋愛小説を。
   近江地方を舞台にした小説は数多いが、そのうち恋愛小説を一つ
   紹介します。ご存知の方も多いかと思いますが‥

        芝木好子「群青の湖」1990.講談社刊

   最近の若い人(セカチュウ、コイソラなど好む人ね)には縁遠い作者かと
   思います。大人が読むにたえる恋愛小説ということでは、「あると思います」と
   おすすめです。

   舞台の近江は日本歴史の発祥の地であります。
   しかし、そういうと怒る人がこの東北の地にはたくさんおられますねえ。
   九州生まれのうさこにはわからん心理ですが、東北地方は大和地方の中央集権政府に
   組み入れられていなかった、我らは独立した国家であった、という気持ちがとても
   強くあるようです。
   それはあってしかるべきことでありますよ。
   いい悪いではなく、しかるべき‥、あたりまえということです。

   なぜなら、大和朝廷というのは「おらが土地だーどけどけ」という政策で
   侵略していったわけではありませんね、日本列島は長い!
   融和していくという方法をとったことが旧事を学ぶとよくわかります。
   ゆえに東北地方(蝦夷ですね)にはその地独特の文化があったというのは
   ごく自然なことで、ことさらに独立していた、といいたてるのは近代人の発想でしか
   ありません。

   話が逸れましたね(いつもですが古代の話になるとリキが入ってしまって)
   近江と古代史と恋愛小説、これはとてもロマンチックなテーマであります。
   群青の湖(うみ)とはもちろん琵琶湖のことです。
   この巨大な湖の周辺には古代古墳群が「立錐の余地もない」ほどにあるのです。
   もちろん発掘され保存されたりせず、ただの山、丘となっているところが
   ほとんどなので開発の波にさらされて、掘ったらあった、という情けない話のほうが
   多いのですね。

   しかし、それとは知らず今歩いている道を、はるかいにしえの人が
   誰かを恋いうる心を秘めて駆け抜けたかもしらん‥、湖岸にたちつくし
   霧の向こうの彼の地に去った人を偲び、追いかけたかもしらん‥、
   などと妄想しつつ行けば、ただの道とも思えなくなるというものです。



   近江といえば安土城ばかり脚光を浴びてきた近年ですが
   織田信長は時代区分では戦国の世ですが、古代からみれば近代人みたいなもので
   うさこはあまり興味がないのです(信長ファンにはスマンがしかし)。
   近江商人などまだ現れるまえに、その礎を築いたマボロシの人々の息に
   ふれてみたい、そう思うのです。

   「群青の湖」の背景は昭和ですが、土地に染み付いている古代の匂いが漂い、
   その風土に生きる人間を哀しくも気高く描かれています。
   染色織物、その原材料となる木を扱う木工の木地師、そして土と火を操る陶工、
   伝統工芸の技を辿ればこの地に集結してしまうという土地柄なのですが、
   その隠し味を控えめに、あくまで人と人の絆と縁を切なく美しく書かれています。
   分厚いですがその読後感は浅い大河ドラマよりも、いいかと思います(笑)。

   古代への興味、その入口は人それぞれにいくつもどこからもあります。
   古代史を知って、で、どうする? ですが、それは今を考えるよすがに
   なろうかというものです。
   その風を感じることで、素粒子以前の息吹に瞬間でも触れる、それはちょっと
   この重い重い肉体の呪縛から自由になれるような気がするんではないか、
   そういうわけであります。

   
   
コメント
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