まだ本番少し手前の紅葉です。
あと四、五日で全身が紅に被われ、同時に風が強くなって
はらはら吹雪のように散ってしまいます。
ここ一番の見頃は、人知れずひっそりと、森の住人だけが知る時間にあります。
儀式のようにすみやかに、終わるのです。
いつもわたしたちは、そのちょっと手前とか、そのちょっと後しか
見ることはありません。
余韻を楽しんで、偲んで、それでもこの特等席があることで
満ち足りた時を過ごせています。
木枯らしが吹きはじめる前の、今年最後のおだやかな季節。
それにしても、この色は、まるで平安朝の歌のようで、
屏風絵に描かれた顔料みたい‥
人は自然を模倣し、それを文化と呼び、誉めたり誉められたり、
羨んだり讃えたりします、人同士で。
(やがて受勲のニュースが読み上げられる文化の日だなあ)
木には名はないし、勲章はもらわない。
けれどそれぞれに少しづつ違った華やぎをみせ、そして散り、
長い眠りの冬を迎えます、いちねんの実りをことほいで。
勲章はないが、人はかなわない美しさです。
この前で、傲慢にはなれない、やさしさも兼ね備えて立っています。