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ハードな鉄からフレキシブルなアートへ、スペイン:ビルバオ

2011-12-17 12:24:15 | 街たち
「世界ふれあい街歩き」スペインのバスク地方、かつて鉄鋼業で栄えたビルバオ。
ビルバオ川がビスケー湾に合流する川沿いに拓かれた街。
人口36万人と都市の規模も大きく、鉄鋼業が盛んだった頃を偲ばせる。

川にかかるビスカヤ橋は、1893年に運搬橋として造られ、世界遺産に登録されている。
今までに運行した総距離は地球を31周、運んだ人は6億人を超えるという。
その橋は特徴的で、高さ45メートル以上の鉄の橋げたから、ワイヤーで貨物車両みたいなものを吊るして移動させ、人と自動車の両方を運ぶ。
それというのも、鉄鋼場への大型運搬船の出入りを妨げないために、可動式の運搬方式をとったからだ。
なんと、その橋げたの上を歩いて渡れるように歩道がもうけてあるらしい。
海風の吹き上げる空中散歩、スリルと爽快感を満喫できそうだ。

街を支えた鉄鋼業も時代とともに衰退し、今は、アートで街を盛り上げる取り組みをしている。
かつての鉄工所あとに、現代美術を中心としたグッゲンハイム美術館が建っている。
グッゲンハイム美術館といえば、本来はニューヨークなのだが、その分館といったものなのだろうか。
その建物も、また趣向を凝らしていて、前から見ると船の先端に見え、横からはカタツムリ、上からはバラに見えるのだとか。
街の中至る所に、オブジェや壁画プレートが置かれている。
なかには、日本のゲームのキャラクターがあったりして、遊び心満点。

ビルバオは、スペインとフランスにまたがる自治権を獲得したバスク地方の一都市。
バスク地方には、ピカソの絵で有名な”ゲルニカ”という街がある。
独自の文化に誇りを持つバスク人を快く思わない、スペインのフランコの依頼によってドイツ軍が爆撃を加え、二千人以上の犠牲を出した惨劇を描いた絵だ。
その街にある”ゲルニカの木”は、バスクの伝統と自由を象徴するものとして立っている。
また、バスク地方のある特色に、男達がかぶるベレー帽がある。
ビルバオは、黒のベレー帽を、後を丸く、前を浅くかぶる。
サンセバスチャンは、少し小さめの青のベレー帽を、後を丸く、片方を丸く、もう片方を浅くかぶる。
フランス側のバスク地方は、白のベレー帽を、ビルバオと逆のかぶりかた。
しかも、ビルバオでは、その習慣を”チャペラ”といっている。
そこからも、伝統を重んじ団結の強いバスクの民をみてとれる。

ビルバオには、”7つの通り”という曲があるという。
陽気にその曲を、そろいのベレー帽をかぶった年配の男達が演奏していた。
彼らは、そのまま、馴染みのバル(居酒屋)にはいって、常連の人たちと酒を飲み、おしゃべりし歌う。
”チェキーロ”とは、小さいグラスで酒を飲みはしごすること。
丘の上の高台にある準旧市街といったところの一角で、男だけの秘密料理クラブを楽しむ人たちがいた。
ビルバオの女は強いので、料理好きの男達は肩身が狭く、家庭ではその趣味を発揮できない。
だから、同じ趣味を持った男達で料理クラブを立ち上げたらしい。
それでも、このクラブの存在を嗅ぎつけた女達が入り込んで、テーブルについてしまった。
キッチンの中だけは死守したというが。
ともあれ、皆仲良く「食べることは人間の義務だから、楽しく過ごさないほうはない」とばかり、生を謳歌していた。

毎週日曜の夕方、60歳以上の男女が広場に集まり、ダンスやおしゃべりに興じる習慣がある。
みな、めいいっぱいのおしゃれをして、集うのだ。
その顔は、生きる喜びに満ち溢れ、目はきらきらと輝いている。
時には、新しいカップルも誕生し、人生楽しくやっている。

楽しく生き生きと生きることに、何の疚しいことがあろうか。
生きる屍が徘徊するようになってしまった国は、なんとも悲しむべきだろう。
先進国でも、自殺者が、しかも20から30代の自殺者が多い国は、異常すぎる。
生きることに疲れ、食べることの、笑うことの、息をすることの、喜びを感じられない。
生まれ出でた運命を呪うなんて、シェイクスピアの劇中だけでたくさんだ。
こんなに美しい国に生まれ落ちながら、足元の草花虫たちの、目を上げれば飛び交う鳥の囀りに揺れる木の葉流れる雲、命の尊い輝きに囲まれながら死せる心。
人の誇り、生の謳歌、。
我々が見失っているものは、なんて多いのだろう。

辛く厳しい過去を背負いながらも、バスクのビルバオに生きる人たち。
彼らに学ぶところが、多いような気がする。