大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・275『は〇がたつ』

2022-02-05 12:38:37 | ノベル

・275

『は〇がたつ』さくら     

 

 

 A:は〇がたつ   B:は〇がたつ

 同じように見えて〇の中に居れる一文字で意味が全然違う。

 

 Aの〇には『る』を入れる。

 すると『春が立つ』となって立春を表すんです

 で、その立春は昨日の事やった。

 うかつにも、わたしは今朝になって気が付いた。

「うふふふ」と留美ちゃんに笑われた。

「アハハハ」と詩(ことは)ちゃんにも笑われた。

「うふふふ」は、ちょっとした遠慮と親しみが籠ってる。

「アハハハ」は、遠慮が無い。それに、アハハハと笑っても詩ちゃんは美人やし。余計に腹が立つ。

「アホか、おまえは~」

 これは、日ごろから、お互いに容赦のないテイ兄ちゃん。

 

「そんな悔しがらんでも、来年も立春はやってくるやろが」

 新聞見ながら声だけ聞こえてるのはお祖父ちゃん。

「明日あると思う心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかわ……お祖父ちゃん、影薄いよ……」

 さすがに、新聞から目を離して嫌そうな顔をする。

 

 はあ~

 

 ため息をついて境内に出てみる。

 うちの境内は、街中(まちなか)のお寺にしては広い。

 広い境内のあちこちに四季の花が植えてあって、婦人会のお婆ちゃんらが手入れしてくれて、ご近所の社交の場にもなってる。

 梅の花がだいぶ膨らんで、椿、福寿草、水仙、シクラメン、それに、元気いっぱいの菜の花たちが盛りを誇っております。

 正月にね、密かに誓ったんですよ。

 立春の朝に『みんな、この春は頑張ろうね!』ってガッツポーズで写真を撮りたかった。

 ところが、しっかり忘れてしまって、今朝のテレビでお天気お姉さんが「昨日は、暦の上では立春でしたが……」という話をしていて――あ、しまった!――になって、自分に腹が立ったわけでです。

 ウニャーー

 本堂の縁側でダミアが「あほかあ」とネコ語でバカにする。

 

 あたしにとって、二年前から立春は特別(トラウマ)や。

 ここに来る前は、大阪市の北東の街に住んでた。

 3DKの集合住宅やねんけど、エントランスの左右には共同の庭があって、いろんな草花が季節ごと、それなりに咲いてた。

 立春が過ぎて、梅の花が咲いて、さくらの蕾が膨らむころに、引っ越しが決まった。

「四月からは酒井になるからね」

「え、お祖父ちゃんの苗字?」

「そうや、四月からは酒井さくらや」

 めっちゃ不安で泣きそうになったけど、お母さんに不安な顔見せられへん。そう思って、がんばって笑顔を作った。

「そうや、さくらには笑顔が似合うんやで」

 そない言うて、人差し指の背中で涙を拭いてくれた。

 引っ越しの前の日、桜の木が一本切り倒された。

「がんばったんだけど、この桜は、もう花をつけないんだ。放っとくと虫がついたり、他の桜にもうつるからね」

 管理人さんが、そう言って、切り株の真ん中にチェ-ンソーでX(ペケ)を刻んだ。

 桜の成長点を壊して、芽を出させない処置だって、関東弁の管理人さんは言ってた。

 

 酒井のお寺に来ると、境内には前の集合住宅よりもたくさんの草花が元気にきれいに咲いてた。

 きれいやねんけど、なんかよそよそしくて馴染まれへんかった。

 それから、お寺の草花は檀家の婦人部の手入れできれいになってると知って、明くる年には、お婆ちゃんらといっしょに馴染みになった。

 で、今年、うちは高校生。

 立春の日には、思いを新たにの記念に写真を撮っておこうと思った次第。

 

 まあ、いいか。

 

 気を取り直してスマホを出すと、頼子さんからメールが入ってる。

―― 卒業式で送辞を読むことになったよ! それから……おっと、これは内緒(^_^;) ――

 いつもながら、眩しい先輩。

 よし、写真撮って、頼子さんにも送ってあげよう!

 そう決心したら、庫裏の方から、ゾロゾロと出てきた。

「さくら、どうせ撮るんやったら、みんなで獲ろかあ」

 テイ兄ちゃんが宣言して、マスク有と無しの二つのバージョンの写真をいろいろと撮りました。

  

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明神男坂のぼりたい・63〔明神女坂〕

2022-02-05 08:42:57 | 小説6

63〔明神女坂〕 

 

 

 遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えただろうと思う。

 明日は日曜という中間テストの中休み、わたしと美枝は誘いあって、外堀通りをお茶の水に向かって歩いている。

 季節はとっくに終わって、沿道は葉桜の満開。誰かが植えたのか自生してるものなのか、あちこちムレるようにいろんな花も咲いている。ムレるは群れると蒸れるのかけ言葉。って、説明したら意味ないか。

 五月の花って生き物の匂い。ちょっと生々しすぎると感じる。

 

 あたしの話は他愛なかった。総合理科のテストがガタガタだったとかの自業自得的な話。

 それに合わせて、美枝もネトフリで見たおバカな映画の話とかしてたんだけど、ちょっとした間があって、シビアな話になったのは、精力の強すぎる花たちの匂いのせいかもしれない。

 

 学校を辞めるかもしれないという話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。

 義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。

 

 美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしまった。家族仲良くなれるために、両親はお誕生会やったり家族旅行を企画したりしてくれた。

 で、二人ともいい子だから、仲のいい兄妹を演じてきた。

 それが、いつの間にか男と女として意識するようになってしまった。

「わたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言ったんだ。お誕生会やったあと『美枝にプレゼント買ってやるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。お店二三件見て、大学生としては、ほどほどのアクセ買ってくれた……」

「美枝、ちょっとお茶でも飲んでかえろうぜ」
「うん(^▽^)」

 あたしは気軽に返事した。

「渋谷の雰囲気のいい紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。あたしら座ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんだ。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思わなかった」

「16って言ったら、親の承諾があったら結婚できる歳だな」
「ほんと? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」

 それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話して。そしたら、急に二人とも黙ってしまって、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろくって、目を見て笑ってしまった。あたしは妹の顔に戻って話しよう思ったら、お兄ちゃんが言うの『美枝。オレは美枝のことが好きだ』」


 言葉の響きで分かった。妹としてじゃないことが。


「……それは、ちょっとまずいんじゃない。兄妹だし」

 なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言ってしまった。

「義理の兄妹は結婚できる」

「え……」

 頭がカッとして、なんにも言えなかった。

 それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしまった。

「連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったじゃんか。あれ、下見。明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないものにしたかった」

「そんなことして、高校はどうするつもりだったの?」
「どうにでもなる。出産前の三カ月は学校休む」

「え……ええええ!?」

 バナナの皮を踏んだわけでもないのに、ひっくり返りそうになった。

「よその学校の例を調べたの。在学中の妊娠出産はけっこうあるんだ。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どうにでもなる。そのことを理由に退学はできないんだ」
「そんなに、うまいこといく?」
「ダメだったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」
「ゆ、ゆかりは、知ってんの?」

 美枝の固い決心に、言葉が無くって、あたしはゆかりのことを持ち出した。

「ゆかりは、反対。でも自信がないから、明日香に相談……ごめん、ちょっと整理つかなくって」
「整理つかないだろうね」

 あとの言葉が続かなくって、気が付いたら昌平橋まで出てしまった。

「ねえ、神田明神にお参りしていこ、整理つかないままでいいから、いろいろお願いしてみるのがいいと思う」

「うん、そうね」

 ここからだと、男坂上って行くことになるんだけど、家の前通りたくなかったので、手前の、普段はめったに通らない坂道を上る。

「へえ、明神女坂てのもあるんだね!」

 美枝は面白がってくれたので、そのまま勢いつけていけた。

「えと、正式なお作法ってあるんだよね」

 町内のお年寄りが慇懃に参拝してるのを見て、ちょっとたじろぐ美枝。

「任せなよ、あたしの真似すればいいから」

「うん!」

 二礼二拍手一礼のお作法と、柏手の打ち方をきれいに決めてやる。

「おお!」

 感動の声をあげる美枝。

 視界の端に、ニコニコ微笑む巫女さんの姿が見えて、授与所でお守りを買う。

「わ、こんなに種類があるんだね!」

 美枝は、ちょっと迷って『勝守(かちまもり)』を買った。

「渋いね、これ、ここにしかないんだよ」

「え、そうなんだ!」

「うん、幸先いいかもよ」

 そう言うと、美枝はポッと頬を染めた。

 なんか、むちゃくちゃいじらしく思えて、なんかグッとせき上げてきて、泣きそうになった。

「ねえ、勝守記念にお団子食べよ!」

 

 そのまま随神門で一礼してからお団子屋へ。

 

「いらっしゃいませえ~(^▽^)/」

 元気よく迎えてくれたバイトのさつきは、全部分かってるよって感じで必要以上に元気がいい。

 でも、よかった。

 美枝の顔色は、いっそう良くなってきたしね。

 今夜は、さつきに、あれこれ聞かれそうだ。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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