大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・093『国交省資源開発局局長 及川軍平』

2022-02-08 13:46:13 | 小説4

・093

『国交省資源開発局局長 及川軍平』 加藤 恵    

 

 

 西ノ島は東京の南海上1000キロの位置にある火山島だ。

 200年前の令和の時代に噴火を繰り返して成長し、いまの面積は16キロ平方メートルで、渋谷区とほぼ同じ大きさ。

 形は、ほぼ円形で、ドーナツに例えると、真ん中の穴が西ノ島火山。

 手に持ったところが南の氷室カンパニー、略してカンパニーとか会社とか呼ばれる。

 右側の東にあるのがナバホ村、通称村。ナバホインディアンの村長が代表で、雰囲気はインディアンと戦国時代の村を合わせたような感じ。

 左側の西にあるのがフートン、フートンとは漢字で胡同と書く。中国の古い街区のことで、血族や一族が集団で生活する中国都市の基本単位の意味がある。代表者は主席と呼ばれて、ちょっと昔の共産中国みたいだけど、フートンでは単に一番偉い人を表す名称に過ぎない。

 三つとも、それぞれ個性的なんだけど、お互いを尊重し合っていて仲がいい。

 パルス鉱の採掘を生業にしているので、事故も絶えないが、その都度、三つの集団が協力し合って乗り切っている。

 数か月前には、カンパニーで大規模な落盤事故が起こって犠牲者も出したが、結束はさらに強くなって、ついこないだ、島で初の銀行が開設されたりもした。

 

 そして、ドーナツの上。手に持ったら、まず齧りつこうというところが北部。

 

 ここは、浅層に鉱床が確認されなかったこともあって、開発から取り残されて、荒れ地のまま国有地になっていた。

 この北の地に、ようやく日本国政府の手が入ろうとしている。

 

 ズゥイーーーーーーーーーン

 

 一昔前の重力エンジンの音を響かせながらB130輸送機が降りてくる。

「なんで、今の時代に重力エンジン機なんだ」

 シゲさんがボヤクのも無理はない。

 騒音が大きいうえに、法的基準値をわずかに下回るだけの高周波を撒き散らしながら降りてくるのだ。

 日ごろ穏やかなパルスエンジンに慣れた島の者には、ちょっと耐えがたい。

「いいかい、みんな笑顔ですよ、笑顔」

 社長が最後の注意をする。

 先週、突貫工事で整備した飛行場には、会社、村、フートンの代表と幹部、それに物見高い非番の島民たちが集まっている。

 掘っ立て小屋のような管制塔には『歓迎 国交省調査団御一行様』の懸垂幕も風になぶられて、ワクワク時めいている。

 誘導員のサインで、B130が大型機の駐機位置に停まると、社長、村長、主席の三代表がB130後部のハッチ前に寄っていく。

 歓迎式典実行委員長のサブが手を挙げると、堵列していた西ノ島合同音楽隊が歓迎の敷島行進曲を演奏し始める。

 ウィーーーン

 後部ハッチが開いてまろび出てきたのは、手に手に旧式なハンベのようなモノを掲げた一個分隊ほどのガスマスクたちだ。

『西ノ島のみなさん、ただいまより法定パルスガス検査を行います、静粛に願います』

 B130から大音量で警告が発せられ、ガスマスクたちは歓迎する島民たちはおろか、B130の前に進み出た社長たちも無視して、飛行場全体に散った。

 握手しようと出した手を真上に上げると『演奏止め』のサインを示す社長。

 村長は、崖の上から第七騎兵隊を睨み据えるシャイアン族のように憮然と腕を組むし、主席は笑顔のまま時間が停まったように静止した。

 やがて班長の腕章を付けたガスマスクが、両手で大きな〇のサインを作った。

 そして、B130の日の丸が描かれた左舷ハッチを開けて、浅葱色の政府指定事業服を着た眼鏡男が出てきた。

「どうも失礼いたしました。環境省の規定でパルスガス発生地では、政府機関の者が直接検査をしなければならない決まりになっていまして。いや、今回は先遣隊を送る時間的余裕も無かったので、失礼いたしました。あ、申し遅れました。わたくし、国交省資源開発局長の及川軍平と申します」

 及川は慣れた仕草で名刺を出すと、三人の代表に過不足なく頭を下げながら渡していく。

「これはご丁寧に、わたし、氷室カンパニー代表役社長の氷室以仁(ひむろもちひと)であります」

「よろしくお願いいたします」

「ナバホ村村長、ナムエリト。インディアン名刺持たない」

「痛み入ります」

「フートン主席、周温雷です、同志及川熱烈歓迎!」

「恐れ入ります」

 

 無礼なのか慇懃なのか……いずれにしろ、型にはまりきった、日本公務員の権化のような及川軍平との折衝が始まった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室 以仁             西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長 マヌエリト          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・66〔変態オヤジの妄想アイテム〕

2022-02-08 06:35:50 | 小説6

66〔変態オヤジの妄想アイテム〕 

       


 キャー、可憐な女子高生が裸にされてる!

 そう言うと「アホか」という声が返ってきた。声の主は、お父さん。
 朝、洗面所に行くと、お父さんがガルパン二人の制服を脱がせている。

 分からない人に説明。

 お父さんは売れない作家で、ほとんど一日部屋に籠もってパソコンを叩いている。で、作家にはありがちなんけど、身の回りには「なんで、こんなものが置いてあるんだ!?」というもんがゴロゴロしていて、まるでハウルの部屋みたい。

 そのガラクタの中で、ひときは目立ってるのが、作りかけの1/6の戦車。で、戦車だけだったら子供じみてるけど、納得はいく。

 どうにもキモイのは、その作りかけの戦車に1/6の制服着た女子高生二人が乗ってること。こないだ来た美枝とゆかりは「かわいい!」って喜んでたけど、あれは社交辞令のお愛想……。

 すると、お父さんはビシっと指を立てた。

「お愛想だと思ってるだろ。伊東さんと中尾さんはちゃんと分かってるんだ。お母さんが部屋片づけてワヤにしたとき、お父さんがポーズと表情直したの見て感動してただろ。お愛想であの感動は出てこないぞ!」
「あの、一つ聞いていい?」

 あたしは歯ブラシに歯磨き付けながら聞いた。

「だけど、なんでガルパン?」
「発想だ。戦車と萌キャラという、まったく別ジャンルのものをくっつけて肩身の狭い戦車オタクと、萌オタクに市民権を与えた。そればっかりじゃない。大震災で落ち込んだ茨城県の街を活性化させたんだぞ。『アマちゃん』と並ぶ震災関係の作品としてはピカイチだと思う」
「けどガルパンには震災の『し』の字も出てこないけど」
「そこが、押しつけがましくなくて、いいとこなんじゃないか。舞台を大洗にしただけで、年間何十万人いう観光客を増やした『いばらきイメージアップ大賞』も受賞したぞ。物書きとしては、大いに刺激を受けるところだ!」
「だけど、そんなの作る側の戦略じゃないの、ほら、ナンチャラ制作委員会とかメディアミックスとかの」

 お父さんは、正面を向いて改まった。

「……世の中に100%の善意なんか存在しない。企業の思惑と計算があって、それで地方の街が活性化する。それでいいんじゃないか? 明日香だって、来年は大学受けるんだろ。それって純粋に勉強しようと思ってのことか? あん?」
「それは……」

 どうも、元高校教師と作家という理屈こね回しのW属性のせいか、丸め込まれそうになる。

「だけど、お父さん」
「なんだ?」
「その前はだけただけのお人形さん、なんとかしてくれない。人形でもセクハラだよ」
「明日香が歯を磨いてるから、しぶきが飛んだらかなわないからな。はやく、顔洗え」
「ムウ……」

 あたしは、ガシガシと歯を磨いて顔を洗った。するとお父さんは、待ってたとばかりに人形を裸にする。
 制服を脱いだ人形は、下着代わりに白い水着を着ている。

「シリコン素材は色写りがしやすいんでな、保護のため……」

 人形に軽いショックを受けた。

 脚の長さは人形のデフォルメなんだろけど、ボディーは成熟した女そのもの。お父さんは、その水着も脱がしてスッポンポンにすると、お湯で、さっと洗って、ドライヤーで乾かすと、ベビーパウダーみたいなのを、小さなザルに入れて振りかけた。

「こうすると、元の元気な姿に戻る」
「お父さん、やっぱ変態だ」
「ハハ、物書きは、みんな変態。誉め言葉だなあ……」

 こたえんオッサンだ。

 部屋に戻って考えた。

 制服いうのは女を隠すようにできてる。なんでもないような子が、水泳の授業なんかで水着になると、同性でもドキってすることがある。友だち同士でも、あんまり、そういう話はしない……ただ美枝みたいな子もいる。で、ゆかりといっしょになって心配なんかしてる。

 だけど、心配してること自体が、自分自身の問題から逃げる口実……ああ、あめだ、落ち込む。

 こういうときは母親譲りのお片づけを発作的にやる。

 中学のときのガラクタを整理。あらかた捨てようと決心すると、中三のときにあげたバレンタインのお返しの袋が出てきた。きれいなポストカードと小さなパンツが入っていた。

「あ、人形にぴったりかも」

 そう思って、一階へ。

「お父さん、よかったら、これ……(;'∀')」

 こんどは生首の模型バラして脳みそをシゲシゲと眺めている。

 やっぱりただの変態オヤジ……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

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