鳴かぬなら 信長転生記
関門が窺える街角まで出ると、坊主たちが足止めされているのが目に入った。
よく見ると、番小屋の奥に陳麗が座らされて、坊主たちの人相改めをさせられている。
「やはりバレているな」
「大丈夫じゃなかったの? 軍の恥だから追手とかは来ないって!」
「兵隊たちの死体が見つかったんだろ、陳麗は俺たちに届け物をした後に掴まったんだ。でも、明け方までは口を割っていない。道館が焼かれたのは明け方だからな」
「焼け跡を探って死体が無いから、急きょ非常線を張ったというところ?」
「そんなところだ」
「どうする?」
「陳麗は女ものの衣装を持って行ったことは喋っていない」
「そうなの?」
「ああ、足止めされているのは坊主ばかりだ。よし、手ごろな隊商を探すぞ」
「隊商?」
「付いてこい」
出征を前にして人の出入りは繁くなってきている。ちょっと大人数の隊商に紛れ込む。
豊盃あたりの裕福そうだが、どこか緩んだ隊商なので、あっさりと列に入ることができた。
「お前たち、手ぬるいぞ、きちんと検めろ」
ちょうど交代の役人たちがやってきて、前任をなじるので、ギクッとした。
「ヤバくない?」
「まあ、見てろ。角を曲がった向こうまで溜まり始めてる。そんなにキチンとは検められないぞ」
「そうなの?」
視界の端に捉えていると、関門の兵たちは、積み荷を改め、男たちは全員笠まで取らせて人相検めをし始めたが、角の向こうから『早くしてくれ!』『いつまでやってるんだ!』と声が上がり始め、五分もすると、人相書きを見ながら、ザっと見るだけになった。むろん、女を検めるようなことはしない。
「よし、通れ」
さらに五分後、あっさりと関門を出ると、三丁ばかり行った鎮守の森めいたところで列から離れる。
「どうしたの、あんたたち?」
荷車を引いていた女が声を掛けてきた。
「え?」
「あ、ちょっと妹がもよおしてきて」
「ああ、お花摘み……」
「アハハハ(^_^;)」
笑ってごまかそうとすると、女が、なにやら目配せ。
プオ~ プオ~
列の前後から聞き覚えのある喇叭が鳴り響いた!
ザザザザザザザ
荷運びの者たちが、荷の中に潜ませていた武器を手に手に、俺たちを取り巻いた。
パッカポッコ パッカポッコ……
列の中ほどに居た人足頭が悠然と馬を進めてきて、人足たちは荷車や馬車を移動させて、俺たちの周囲を取り巻き始めた。
「フフフ、ひっかかったな」
笑いながら外套をとると、その下は、これも見覚えのある甲冑を着こんでいる。
「おまえは!?」
「知っているところを見ると、酉盃に入ってきた時、どこかで見ていたな?」
そいつは、きのう大仰な隊列を組んで入城してきた、輜重部隊司令の曹素だ。
「そう、『輜重輸卒が兵隊ならば、チョウチョ・トンボも鳥のうち』と常々こき下ろされている輜重部隊司令の曹素様だ。夕べは、よくも俺さまの兵たちを痛めつけてくれたな」
「あれは、貴様の兵だったのか?」
ちょっと意外だ。野卑な奴らだったが、一応は武術の心得がある奴ばかりだった。
「そうさ、輸送部隊の中から引き抜いた、ちょいマシな兵たちだ。じっくり育て上げ、ゆくゆくは戦闘部隊になった時には俺さまの近衛になるはずだった奴らだ」
「フン、ずいぶん下劣な近衛もあったものね」
「下劣を侮るな。下劣は力だ。むろん、今すぐに一騎当千の力を振るえるような奴らじゃないがな、こうやって、隊商に化けさせても見破られることが無い。だから、お前らは、まんまと引っかかったんだ。あの女……なんと言ったかな?」
「陳麗です」
「ああ、その陳麗はバカだから、お前たちを坊主だと思い込んでいたがな、明花と静花の二人は、お前たちを女だと見抜いていたぞ。さすがは、指南街一の学者の娘だ。お前たちを総大将曹茶姫直属の娘子憲兵と見抜いておったぞ」
「きさま、あの二人を!?」
「安心しろ、あいつらも、腕一本折られるところまでは口を割らなかったからな。落ちぶれ学者の娘としては、よく義理を通したぞ」
バカで残忍なやつだが、こいつ、根本的なところで勘違いしているぞ。
「グヌヌヌ……」
いかん、市のやつが切れ掛けだ……
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹 茶姫 曹軍女将軍
- 曹 素 曹茶姫の兄