やくもあやかし物語・125
ズザザザザザザザザザ!!
ハートの上で思いっきり頭を下げたわたしの上を幾百幾千のウロコをそよがせながら青龍は通過していった。
「あ、危ないところでした。やくもさんが、もうちょっと頭を下げるのが遅れたら、あのウロコが擦れてギトギトにされるところでした(;'∀')」
口から上だけを覗かせたアキバ子が声を震わせた。
「わたしには見えた」
え?
胸ポケットにいたはずの御息所の声が頭の上からした。
「いつのまに頭の上に?」
「ひょっとしたらと思ってね」
「なにが?」
「ひょっとしたんですか?」
「逆鱗よ」
「「げきりん?」」
「そう、逆鱗。聞いたことない?『逆鱗に触れてしまう』とかって慣用句があるでしょ」
「ああ、聞いたことある。そこに触ったらおとなしい人でも、ぶちぎれてしまうって、激おこスイッチ!」
「龍にスイッチがあるんですか?」
「タトエだと思う。そもそもゲキリンて絵とかで見たことないし」
「顎の下に、逆さまに生えてるウロコのことよ。ほんの0.1秒だったけど見えた。やくも、逆鱗を撃つのよ!」
「そんな!?」
「そんなとこ撃ったら、青龍、激おこぷんぷん丸になってしまう!」
「怒るってことは、最大の弱点なのよ!」
「でも、だって、ここは青龍の夢の中なんでしょ? 勝てっこないし!」
「わたしを誰だと思ってるの! この千年、夢を戦場にしてきた夢狩りの戦士、六条御息所よ!」
「そ、それは分かってるけど」
「ええ、まどろっこしい!」
スポン
ポケットから飛び出した御息所は、わたしの目の前でバク転すると等身大になって、わたしの前に立った。
「やくもは、しゃがんでガバメントを構える!」
「は、はい!」
「まず、その目で逆鱗を見て」
「う、うん」
「尻尾の方から喉元を見ていくから、しっかり、その目で見て!」
「うん」
「見たら、撃つ! いいわね!」
「う、うん」
「がんばってください、やくもさん(;'∀')」
「いくよ!」
ギュィーーーーーーーーーン!
ハートは、レーシングカーみたいな音をさせて、青龍の背後に回っていく。
「「ウワアアアアアアアア(@゜Д゜@)」」
アキバ子と二人叫ぶのも構わずに、操縦権を握った御息所はハートを青龍の背後に寄せていく。
ズザザザザザザザザザ!!
頭の上数センチのところを、それ自体が生き物のように青龍のウロコがそよいでいく!
げきりーーーーーーーん!
ガバメントを構え、怖いのも我慢してゲキリンを探すけど「どれがゲキリーーン!?」とパニクッテいるうちに通過してしまう。
「チ」
「あ、舌打ちすることないでしょ!」
「頼りなさすぎ!」
「こんどは、この目で教えてやるから」
「ヒ(°д°)!」
御息所の目がストロボ写真のようなレッドアイになったかと思うと、レーザー光線みたく二筋の光を放ち始めた。
「この光が点滅してグリーンになったらロックオンだから、直に撃って!」
「う、うん!」
ギュィーーーーーーーーーン!
ズザザザザザザザザザザザ!!
再び増速したハートは、空中で二回転して青龍のお腹に迫った。
そして、二筋の光が点滅したかと思うと……グリーンになった!
ズッゴーーーーーーーン!
ひときわ大きな発射音がしたかと思うと、周囲が真っ白になり、青龍は無数のポリゴンみたくなって消えていった。
わたしたちも……乗っているハートもろとも消えてしまった……。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子 青龍