大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・125『アキバ上空青龍戦・3』

2022-02-17 13:57:35 | ライトノベルセレクト

やく物語・125

『アキバ上空青龍戦・3』 

 

 

 ズザザザザザザザザザ!!

 

 ハートの上で思いっきり頭を下げたわたしの上を幾百幾千のウロコをそよがせながら青龍は通過していった。

「あ、危ないところでした。やくもさんが、もうちょっと頭を下げるのが遅れたら、あのウロコが擦れてギトギトにされるところでした(;'∀')」

 口から上だけを覗かせたアキバ子が声を震わせた。

「わたしには見えた」

 え?

 胸ポケットにいたはずの御息所の声が頭の上からした。

「いつのまに頭の上に?」

「ひょっとしたらと思ってね」

「なにが?」

「ひょっとしたんですか?」

「逆鱗よ」

「「げきりん?」」

「そう、逆鱗。聞いたことない?『逆鱗に触れてしまう』とかって慣用句があるでしょ」

「ああ、聞いたことある。そこに触ったらおとなしい人でも、ぶちぎれてしまうって、激おこスイッチ!」

「龍にスイッチがあるんですか?」

「タトエだと思う。そもそもゲキリンて絵とかで見たことないし」

「顎の下に、逆さまに生えてるウロコのことよ。ほんの0.1秒だったけど見えた。やくも、逆鱗を撃つのよ!」

「そんな!?」

「そんなとこ撃ったら、青龍、激おこぷんぷん丸になってしまう!」

「怒るってことは、最大の弱点なのよ!」

「でも、だって、ここは青龍の夢の中なんでしょ? 勝てっこないし!」

「わたしを誰だと思ってるの! この千年、夢を戦場にしてきた夢狩りの戦士、六条御息所よ!」

「そ、それは分かってるけど」

「ええ、まどろっこしい!」

 スポン

 ポケットから飛び出した御息所は、わたしの目の前でバク転すると等身大になって、わたしの前に立った。

「やくもは、しゃがんでガバメントを構える!」

「は、はい!」

「まず、その目で逆鱗を見て」

「う、うん」

「尻尾の方から喉元を見ていくから、しっかり、その目で見て!」

「うん」

「見たら、撃つ! いいわね!」

「う、うん」

「がんばってください、やくもさん(;'∀')」

「いくよ!」

 ギュィーーーーーーーーーン!

 ハートは、レーシングカーみたいな音をさせて、青龍の背後に回っていく。

「「ウワアアアアアアアア(@゜Д゜@)」」

 アキバ子と二人叫ぶのも構わずに、操縦権を握った御息所はハートを青龍の背後に寄せていく。

 ズザザザザザザザザザ!!

 頭の上数センチのところを、それ自体が生き物のように青龍のウロコがそよいでいく!

 げきりーーーーーーーん!

 ガバメントを構え、怖いのも我慢してゲキリンを探すけど「どれがゲキリーーン!?」とパニクッテいるうちに通過してしまう。

「チ」

「あ、舌打ちすることないでしょ!」

「頼りなさすぎ!」

「こんどは、この目で教えてやるから」

「ヒ(°д°)!」

 御息所の目がストロボ写真のようなレッドアイになったかと思うと、レーザー光線みたく二筋の光を放ち始めた。

「この光が点滅してグリーンになったらロックオンだから、直に撃って!」

「う、うん!」

 ギュィーーーーーーーーーン!

 ズザザザザザザザザザザザ!!

 再び増速したハートは、空中で二回転して青龍のお腹に迫った。

 そして、二筋の光が点滅したかと思うと……グリーンになった!

 

 ズッゴーーーーーーーン!

 

 ひときわ大きな発射音がしたかと思うと、周囲が真っ白になり、青龍は無数のポリゴンみたくなって消えていった。

 

 わたしたちも……乗っているハートもろとも消えてしまった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子 青龍

 

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明神男坂のぼりたい・75〔紫陽花の女〕

2022-02-17 06:44:03 | 小説6

75〔紫陽花の女〕 

        

 


 紫陽花の花はかわいそう。

 だって、花言葉は……移り気。


 ほんとは移り気じゃないと思う。紫陽花も、その成長に合わせて色が変わってるだけだもん。人は、それを移り気という。

「あ、しまった!」

 忘れ物に気がついたのは、明神さまの境内を抜けてしばらく行ったところ。時計を見て間に合うのを確認して家に取りに帰る。


――あ、全然違う――


 その女の人の顔を見て、そう思った。ちょっとしたショック。

 その女の人は、この一月にできたばっかりのアパートに春になって入ってきた。通学路なので、ほぼ毎日姿を見る。

 アパートの前は、都の条例で建て替える時に減築して、それまでは通りに面してたアパートの前に、ちょっとした植え込みができた。

 女の人は、越してきてから頼まれもしないのに、草花に水をやったり手入れをしている。腕がいいのか、その人が手入れするようになってから、植え込みの花が元気になってきた。

 越してきたころに、植え込みの桜の剪定をやったので、ちょっとオーナーさんともめてるところを見た。オーナーさんは越してきた女の人が、桜の枝を勝手に切って、自分の家の生け花にしよと思たらしい。だけど、女の人の手入れがいいので、桜は最初の春から立派に花をつけた。するとオーナーさんは、女の人に植え込みを任せるようになった。植木屋さん頼まなくてももいいし、自分で手入しなくてもすむようになって、それからは任せている。

 桜が、花水木になり、バラになったころ、あたしは女の人と挨拶するようになった。

 ほんの目礼程度なんだけど、花が満開になったような笑顔で挨拶を返してくれる。その明るさに、あたしはかえって、この女の人は心に闇を持ってるんじゃないかと思った……。

 バラの花を一輪もらったことがある。剪定のために切り落とした蕾。水気が抜けないようにティッシュに水を含ませ薔薇の切り口に絡めて、アルミホイルでくるんでくれた。

 学校で半日置いた後、家に持って帰って一輪挿しに活けておいた。それが、こないだまで小さな花を咲かせていた。

 

 あたしは、ある日から女の人に挨拶しなくなった。

 朝、男の人を見送るのを見てから……女子高生らしい気おくれ……あたしにも、こんなとこがあるんです!


 今朝も、男の人を幸せそうに見送っていた。ただし、最初の男の人とは違う……。

 そして、忘れ物とりに戻る途中でも、女の人を見かけた。女の人は紫陽花の花を見つめながら、悲しそうな顔をしていた。

 唇が動いた。

「移り気」と言ったような気がした。

 忘れ物を持って大急ぎで学校に向かう途中、女の人は、もう自分の部屋に入ったのか姿が無かった。

 学校でいろいろあったうちに女の人のことは忘れてしまった。


 学校から帰ると、お母さんからショックなことを聞いた。


「あのアパートの女の人、自殺未遂だって。なんだか男出入りの多い人だったて、オーナーさんが……」
「そんな不潔な言い方しないで!」

 お母さんは食べかけのマンジュウ喉に詰まらせてむせ返った。

 紫陽花の花は移り気じゃない。成長に合わせて色がかわるだけ……だから、人に見てもらうために、ひっそりと色合いを変えてみせてるだけなんだ。

 せわしない今の人間は、アナウンサーやら天気予報士が予報の枕詞に使うぐらいで、紫陽花の色の変わったのにも気がつかない。

 それ以来、その女の人は見かけなくなった。もうアパートにはいないんだ。植え込みが荒れてきたもん。

「……挨拶ぐらい、しておけばよかったな」

 さつきの呟きに返す言葉も無かった。

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