大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・259『特務師団司令部』

2022-02-13 11:07:17 | 小説

魔法少女マヂカ・259

『特務師団司令部語り手:マヂカ  

 

 

 来栖種寿(くるすたねとし)中将、第二代師団長来栖種臣の父にして現特務師団司令来栖種次の曽祖父。

 記憶では歳を感じさせない溌溂とした師団長だったが、師団長席に浅く座った姿は、作戦に失敗して予備役を申し渡された老参謀長のようだ。

「すまんな、時違い(時代の違う)の魔法少女を呼び出すのは反則なんだが。緊急を要する事態なので、あえて来てもらった」

「この時代の軍服を着せたというのは、無理を通すという意思なのかな?」

「いや、単に通行をしやすくするための方便だ。女子学習院の生徒を呼び出すわけにはいかないのでな」

「この時代のマヂカを呼び戻すのではダメなのか?」

「欧州が予断を許さない状況なのは知っているだろう」

「話を聞かせてもらおう」

「まあ、そこに掛けてくれ」

 来客用のソファーに座ると、テーブルの上にお茶とシベリアが現れた。

「JS西郷が用意してくれたんだ、貴様の好物だろ」

「まずは、話を聞こう」

「貴様、長門を助けただろう」

「まずかったのだな?」

 ファントムの言葉が蘇る。長門の乗員が救助した者の中に、なにかとんでもない者が混じっていたという話だ。

 ファントムは後日、その狩り方を教えると言っていたが、まだ音沙汰は無い。

「ああ、この十二月に虎の門事件が起こる」

「知っているのか!?」

 特務師団長とは言え、未来の事を知るのはご軍規違反だ。

「ああ、ひ孫の種次と情報交換をやった。時空障壁のため、交換できた情報は一つづつだがな」

「それが、虎の門事件?」

「ああ、摂政殿下をお載せした車が狙撃される」

「それは、犯人は、その場で取り押さえられて摂政殿下は御無事のはず……」

 そこまで言って思い当たった、長門の乗員が救助した者たちの中に、犯人の仲間が居る。

「史実では単独犯だったが、他にも仲間が居て、虎の門事件は違う結末を迎えたということか!?」

「それだけではない、貴様らが取り逃がしたファントムだ。あいつは時空を超えてやってきている。どうやら、トキワ荘で書かれた何万何百万の創作物が凝って生まれた妖のようだ。その害は、この大正の時代に留まらず、貴様らの時代にも影を落としそうな気配だ」

「わたしの時代に……」

「気にはかかるだろうが、それは曾孫の種次たちの仕事だ。貴様らは、全力を挙げて、十二月に起こるであろう虎の門事件をなんとしてでも阻止してもらいたい」

「こちらの特務は動かないのか?」

「申し訳ないが、動かないことが史実だ。これ以上余計なことをして歴史を変えてはならんのでな」

「そうだな」

「そのシベリア同様、お茶の子さいさいで退治してくれることを希望する」

「あ?」

 いつの間にか、わたしは、シベリアの最後のひとかけらを咀嚼していた。

 

 師団長の従卒に敬礼されて司令部の玄関ホールに戻ると、司令部の車寄せにJS西郷が曹長の軍服で立っている。

 ターニャかカチューシャか……思っていても口にはしない。

「少佐、師団から人的な援助はできないが、必要な物資はなんでも使っていいよ。主計課に話は通っている」

「思うんだが、わたしとノンコが来たのは、JS西郷、お前の企みなのではないか?」

「え、今日呼んだのは、少佐だけ。ノンコは呼んでないし(;'∀')」

「司令部じゃない、この大正時代にだ」

「ム、それは……」

「まあいい、シベリアは美味かったぞ」

「それは何より、主計課に言って糧食リストに入れといてやる。食べたければ食いに来い」

「いやだ」

「ムー」

「お前が毎日届けに来い」

「なんで、あたしが!?」

「そうだ、木村屋の娘の設定にしろ。みんなに可愛がられるぞ」

「あたし、ここでは曹長待遇なんだからね」

「わたしは少佐だぞ」

「ムムー」

「そうだ、今度の日曜は、銀座で震災復興大売出しだ。おまえも来い」

「なんで、あたしがぁ」

「大事の前に英気を養うんだ、高坂候からお小遣いももらってるしな、チョコパフェ食わしてやるぞ」

「チョ、チョコパフェ!?」

「シベリアもいいが、チョコパフェもいいぞお」

「そ、そうだな」

「そうだ、お子様ランチも奢ってやろう」

「お、お子様ランチもか」

「あ、その時は軍服なんか着てくんなよ。黄帽のJSもダメだぞ。この時代のを着てくるんだぞ」

「わ、分かってる! クダクダ言うな!」

 気が付くと、わたしは女学生、JS西郷も、この時代の小学生のナリになって九段の坂を下っていた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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明神男坂のぼりたい・71〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕

2022-02-13 06:00:46 | 小説6

71〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕 

     

 

 なんで関根先輩が居るの!?

「そりゃ、明日香がリレーのアンカーやるっていうから見に来ないわけにはいかんだろ?」

 サラッと先輩。

「だって……あたしがリレーの代走に決まったのは、ついさっきですよ。アンカーの子が休んでしまったから」
「え、あ、そうだったっけ(^_^;)?」

 焦ってとぼける先輩。ウソ見え見え。

 胸のポケットに家族のIDカードが覗いてる。あ、なんかドキドキしてきた。

「あ、ちゃんと写真撮ったぞ。ゴール前でこけたのはビックリして撮りそこなったけどな」

 で、先輩は、スマホを出してスライドショーをやってくれた。競技中のは狙うのがむつかしいようで少なかったけど、応援席にいてるのやら、入場門のところで乙女チックに出番を待ってるのやら。

 そして……中学時代の懐かしくもおぞましい写真まで( ゚д゚ )。

 障害物競争で麻袋穿いてピョンピョン跳ねてる明日香。そんで麻袋脱ごうと思って、うっかりハーパンとパンツ脱ぎかけて半ケツになったやつ!?

「な、なんで、こんな古い写真……なんで、ここだけ鮮明に!?」
「いや、たまたまや、たまたま。写真は消し忘れ!」

 焦ってる先輩も可愛い(〃▽〃)。

 って喜んでる場合じゃない!

―― まあ、半ケツと言ってもお尻の本体が丸々見えてるわけではないぞ ――

 さつきが囁いて、言い損ねる。

「そうだ、二人で撮ろうか」
「うん」

 そう言って自撮りしようとしたら、声がかかった。

「あたしが撮ろうか?」

 ブラジルの制服姿の新垣麻衣が、あたしらの前に立った。

「あ、麻衣ちゃん、お願い」
「じゃ、いきますよ~」

 カシャ

 再生すると青春真っ盛りの二つの笑顔。先輩の笑顔も見たことないほどいい。いや、良すぎる……。

「あたし、明日香のクラスに転校してきた新垣麻衣です。こちらは、明日香の彼?」
「あ、この人は……」

 説明しかけると、教務の先生が麻衣を呼んだので、アイドルみたいな返事して、校舎の中に消えていった。

「か、可愛い子だなあ……」

 魂もっていかれたような顔して関根先輩。

「あたし、麻衣の世話係だから、よかったらサイン入りの写真でももらっとこうか?」
「え、あ、いや、それは……あの子の明るさは日本人離れしてるなあ」
「ブラジルからの帰国子女!」
「ああ、ブラジルか。情熱のサッカー大国だな」

 そのあと閉会式になったので、先輩とは半端なまま別れた。気まぐれでも見に来てくれたのは嬉しい。だけど、正直に麻衣に鼻の下伸ばしたのは胸糞悪い。

―― ま、いいではないか。坂東の男は、こういうことには正直なもんだ(^▽^) ――

 さつきが姿も見せずに言う。

 団子屋のバイトはどうしたの!?

―― つつがなくやっておるぞ。だから、姿は見えないだろうが ――

 こいつ、なんか進化してない(-_-;)?

 月曜からは大変だった。

 麻衣は、TGHの制服着ても華やかさはまるで変わらない。朝のショートホームルームの自己紹介も華やかで明るくって、ほんとに、このままAKRのMCが務まりそうなぐらいだった。クラスの男子の好感度は針が振り切れてしまったし、女子も自然な明るさに好感を持ったみたい。

 あたしは慣れない日本にやって来て、さぞかし心細いだろうと、気遣いと心配は十人分くらい用意してきた。どうも、いらない心配だったみたい。

 で、心憎いことには、あたしへの心遣いも忘れていない。授業や学校のことで分かないことがあったら、必ずあたしに聞きにくる。

 要は、見かけも気配りも言うことないんだけど、その完璧さが面白くない。

 嫉妬だというのは自分でも分かってるので、なるべく表に出さないように気をつけた。

 友達は、いきなり増えても麻衣が気疲れするだろうと思って、積極的に紹介したのは、伊東ゆかりと中尾美枝の二人だけ。

 すると、クラスの子たちからは「麻衣の取り込みだ」というような顔をされる。で、そのクラスの子たちとの仲を取り持つのも、いつの間にか麻衣自身とかね。

 めでたいことなのに、こんなにイラついた経験は十七年の人生で初めてかもね。

 神田明神に『イラつき封じのお守り』は無かった。

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