大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・276『さくらと留美のお受験』

2022-02-10 13:56:11 | ノベル

・276

『さくらと留美のお受験』     

 

 

 いやあ、よう落ちてるなあ!

 

 取り入れた洗濯物の作務衣を見てテイ兄ちゃんが感動する。

「これ!」

「あ、しもた!」

 おばちゃんに怒られて、いつになくビビるテイ兄ちゃん。

 おっちゃん、お祖父ちゃん、詩(ことは)ちゃんから、いっせいに怖い顔で睨まれとる。

「アハ、大丈夫ですよ、それは洗濯物だし、あたしたち専願だし」

 韻を踏んだ留美ちゃんのフォロー。

「「「「「「アハハハハハハ」」」」」」

 

 昨日のことを思い出して、足取りも軽く家を出たのが40分前。

 駅に着くと、いっしょに試験を受ける中学生が、粛々と聖真理愛学院の校門を目指す。

 令和4年2月10日の朝。

 ちょっと薄曇りやったけど、昨日までの寒さは緩んで、今朝の天気予報では「午後、多くの私立高校の入試が終わるころには晴れ間が見られるでしょう」と言ってた。

「スカートの後ろ、ヒダ大丈夫?」

「え、あ、うんOK」

 留美ちゃんが心配するのは、前を歩いてる子のヒダが乱れてるから。たぶんアイロンあてるのに失敗したんや。

「大丈夫だよね、あんなに確認したんだから」

 持ち物やら時程やら、電車のダイヤまで、何回もチェックした。

 間違いはないはずやねんけど、やっぱり、いろいろ気になってしまう。

 いまさら、夕べのテイ兄ちゃんのスカタンが蘇る。

 

 うちも留美ちゃんも専願やさかいに、落ちたら後が無い。

「まあ、公立の二次募集、ギリで間に合うところはあるからね」

 もう姉妹同然の留美ちゃんやから、読まれてます。

「けど、公立の二次募集て……」

 定員割れのちょっとしんどい学校しかない。

「ウソウソ、冗談。がんばろうね」

 ウウ、留美ちゃんも言うようになった。

 

 角を曲がって、正門が見えてくる。

 

 先生らしい人が三人立ってて、受験票の確認とかやってる。

 前を歩いてる子らが慌てて(慌てることもないんやけど)書類を出してる。

「あ、うちらも」

 我ながらあがってしもてて、カバンのチャックが……なかなか開けへん。

「大丈夫だよ、ああやって、何度もチェックすることで万全を期してるんだよ。ここで不備が分かったら、まだ余裕で対応できるしね」

「あ、そかそか(^_^;)」

「あ、あの車?」

「え?」

 今まさに、学校の前の道に入ってきて、正門の横に見覚えのある黒のワゴンが停まった。

「頼子さんだ」

 小さく叫ぶと、留美ちゃんは、左右に手を振るかいらしいモーションで車に寄っていく。

「顔だけでも見ておこうと思ってね」

 マスクをしてても明瞭な発音。さすがです。

「頼子さん、ちゃんと制服なんですね!」

 留美ちゃんが感動。

「ソフィーは?」

「どこかでガードしてくれてると思う」

「ありがとうございます、内心ガチガチやさかい、頼子さん見て勇気百倍です!」

「そう、来た甲斐があったわ。なにも困ったことは無いわね?」

「はい、オッケーです!」

「よし、じゃあ、頑張ってね!」

 グータッチをすると、車は、そのまま正門前を通って走り去っていった。

 

 正門で、受験票やらのチェックを受けて、ピロティーへ。

 学校ごとにまとまってる受験生。

 学校によっては中学校の先生も来ていて、顔を見ながら生徒をチェックしてる。

 安泰中学からは、うちら二人だけやから、来てくれてる先生はいてへん。

「おはよ」

「「え?」」

 振り返ると、ビックリした!

 担任のペコちゃん先生が、不二家のトレードマークそのままの顔で立ってるやおまへんか!?

「先生、なんで?」

「うん、うちの近所だしね。もう一校回るし……よしよし、大丈夫みたいね」

「「はい、ありがとうございます!」」

「ふふ、あんたたち、なんだか双子みたいになってきたね」

「「え、あ、アハハ」」

「あ、じゃあ、先生、次の学校行くね。がんばれ、文芸部!」

「「はい!」」

 先生は、マスクからはみ出しそうなペコちゃんスマイルを残して正門を出て行った。

 出しなに腕時計見てたんは、やっぱり時間が押してるんやと思う。

 さあ、いよいよ本番。

 スイヘーリーベーボクノフネ……

 あ、あかん。周期律表のスイヘーリーベーが突然湧いて来て、これはループしそうや。

 みんなの暖かい励ましやら気配りにホッコリして、さくらと留美のお受験が始まった!

 スイヘーリーベーボクノフネ……スイヘーリーベーボクノフネ……あかん、止まらへん(;'∀')

 

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明神男坂のぼりたい・68〔夏も近づく百十一夜・2〕

2022-02-10 09:05:04 | 小説6

68〔夏も近づく百十一夜・2〕 

 



 東風先生のプロットをクソミソに言ってしまって、凹みながら家に帰った。帰り道は美枝とゆかりといっしょ。

「どうしたの、なんか食べたいもの食べ損なった?」
「ひょっとして、東風先生と、なにかあった?……さっき職員室行ったら、先生怖い顔してパソコン叩いてた。前の校長のパワハラのときは敵愾心満々の怖さだったけど、今日の怖さは、なにか人に凹まされたときの顔だよ。あの先生が凹むって言ったら、クラブのことぐらいでしょ。で、クラブのことで、凹ませられるのは鈴木明日香ぐらいのもんだからね」

 最初の牧歌的な推論は、ゆかり。あとの鋭いのが美枝。自分のことは見えないのに、人の観察は鋭い。ああ、シャクに障る!

 で、うちに帰っても、自己嫌悪と美枝へのいらつきはおさまらない。馬場さんに描いてもらった肖像画も、なんだかあたしを非難がましく見てる双子の片割れみたい。いらんこと言いのさつきも、こんなときは姿を現さず、あたしの中で寝ている!

 だけども、こんなときでも食欲が落ちない。晩ご飯はしっかり食べた。だけど、なにを食べたかは五分後には忘れていた。

 うちのお風呂の順番は、お母さん→あたし→お父さんの順番(オヤジが最後いうのは、よそもだろうね)で、お母さんは台所の後始末してから入る。その間、あたしは洗濯物とり入れるのが仕事なんだけど、今日はピーカンだった天気が、夕方にはぐずつきだした(うちの気分といっしょ)そんでお母さんが早々と取り込んでいいたので、することがない。自然にパソコンを開く。

 O高校演劇部のブログが目に止まる。O高校は最近更新が頻繁……だと思ったら毎日更新してる。

 エライと思った。毎日コツコツというのは、人間一番できないこと。そう思うと読み込んでしまう。で、感動は、そこまでで、東風先生と同じようにひっかかってしまう。

「知っていたら、情報があったら観に行ったのに」と思う公演もたくさんあるのです。これって本当にもったいないことだと思いませんか? やはりどれだけ観劇が好きな人でも、情報なしに公演を観に行くことは出来ません。

 一見正論風に見える三行が、まるで東風先生の言葉みたいで、ひっかかった。

 高校演劇の芝居が観られるのは、主にコンクール。

 本選にあたる中央大会は、けっこう人が集まるけど、地区大会は、あまり人が来ない。学校ごとの校内発表会や、自治体の文化行事で上演されることもあるけど、まあ、人は集まらない。

 たしかに派手な情報発信は少ないよ。校内発表なんて、外に向かって予告されることってほとんどない。

 でも、やったからって……人は来ないよ。

 だってさ、学校には、いろんな劇団とか大学の演劇部、部活グループ、自治体の文化イベントとかの案内は、結構来てるんだよ。中には招待券とか割引券とか同封してあって、そういうの貰って、一年の時、四五回は観に行った。

 でもね、費用対効果っていうんだろうか……たとえ、招待券でも、交通費だけで1000円超えちゃうのってザラじゃん。高校生の1000円て、どうかしたら三日分のお昼代だよ。

 ああ、時間とお金使ったわりには……というのがほとんどなんだよ。

 

 それってさ、天国とか極楽はいいとこだ! とか、思っていて「死ぬのは嫌だ」と言ってるのに似てる。

 こういう演劇部員って、言ってるように情報発信されても、きっと見に行ったりしないよ。

 

「明日香、暗いぞぉ」

「あ、さつき」

 気が付くと、机の横にさつきが立ってる。早々とだんご屋の制服着てるし。

「だんご屋、好きだからな」

「あ、ちょっと、いつもと違う」

「気が付いたか(^▽^)/」

 そう言うと、さつきはクルンと一回転して見せる。

 団子屋の制服はウグイス色の作務衣風なんだけど、襟のところに茜の縁取りが入ってる。

「おかみさんがな、さつきちゃんみたいな若い子が入ったんだ、少しは華やかにしようってな」

「うん、ちょっとしたことで華やか!」

「だろ、今までのに茜のパイピングしただけなんだけどな。ま、世の中、ちょっとしたことで楽しくなるってことさ」

「あ、これを機に値上げとか?」

「あ……ここんとこ原材料費上がってるからなあ」

「やっぱ!?」

「おかみさんは、さつきちゃんの時給も上げてあげたいしねえ……とか言うんだけど、わたしは趣味でやってるようなもんだからな。このままでいいですって。本当は、新規にお仕着せ作るはずだったんだけどな。100均でパイピング買ってきて、ガーーってミシン踏んで、しめて500円でイメチェンだ」

「なんか、すごく、令和の時代に馴染んじゃってんのね」

「明日香も、友だち連れて食べに来い。ほれ、三名様で来たら一人分タダって優待券くれてやるから」

「おお、サンキュ」

「パソコンというのも面白そうだなア……なんか、いっぱい四角いのが出てるけど、なんだ?」

「アイコンだよ。まあ、高機能の目次みたいなもんで、カーソル持ってきてクリックすると、そのページが出てくるわけ」

「ん、この『ASUKA』って言うのはなんだ?」

 さつきは、もう何カ月も開いたことが無いフォルダを指さす。

「ああ、あたしの写真とか動画とか保存してあるの」

「見せろ」

「やだよ、ハズイのもあるから」

「よいではないか、えい!」

「あ、ええ!?」

 なんと、マウスも持たないで、アイコンをクリックした!

「おお、わたしの念力でも操作ができるんだ!」

 あ、ちょっとヤバイ(;'∀')

「お、このねじり鉢巻きの可愛いのが明日香か?」

「え、あ、まあね」

 それは、子どものころに石神井で盆踊りを教えてもらったときのだ。

 神田明神のお祭りは見てるだけだけど、石神井の盆踊りは誰でも参加できる。

「こういうのは、さつきの時代にもあったぞ……うん、秋の稲刈りが終わったころに、お祭りがあってな。この日ばかりは、身分とか関係なしに酒飲んで、夜通し踊ったもんだ」

「動画の、見てみる?」

「お、おう、見せろ見せろ!」

 何年かぶりで『石神井盆踊り』をクリックする。

 アイコンの写真だったのが、命を吹き込まれたように動き出す。

 まだ四つくらいだった明日香が浴衣を着せてもらって、シャクジイといっしょに踊ってる。

 

 ハア~ 踊り踊るなアら、東京音頭ぉ~♪

 

 櫓の向こうには、同じように浴衣を着たシャクバアとお母さんが踊って、こっちに気が付いて手を振ってくれてる。お父さんは? 振り返ると、お父さんがギャラリーでビデオを撮ってくれている……そうだ、この動画はお父さんが撮ってくれたんだ。

 見よう見まねで踊りの輪の中に入って、二三周回ると、なんとか踊れるようになって、とても嬉しかった。

「ほんとだ、明日香、これはなかなか楽しいぞ(^▽^)」

 気が付くと、あたしの横にはさつきが踊っている。

「え、なんで?」

「細かいことは気にするな、今夜は、よっぴき踊りまくるぞぉ!」

 

 花の都の 花の都の真ん中で ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ♪

 

 最初は見上げていたさつきの顔が、いつのまにか目の高さになって、いっぱいいっぱい踊りまくって、時々休んで、お酒なんか飲んだりして……家族みんなで、石神井やら神田やら学校のみんなも混じって、いっぱいいっぱい踊りまくった。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

  

 

 

 

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