大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・260『銀座四丁目』

2022-02-21 12:15:38 | 小説

魔法少女マヂカ・260

『銀座四丁目語り手:マヂカ  

 

 

 魔法少女の勘なのかもしれない。

 

 ジタバタしても始まらないと思うのだ。

 来月起こるであろう虎の門事件、ファントムのクマさん誘拐事件。

 どちらも下手に動けば取り返しがつかなくなる。ここは、落ち着いて構えるべきと魔法少女の勘は言う。

 史実では、犯人は一人で発砲直後、すぐに掴まって摂政の宮は御無事だ。

 しかし、戦艦長門を史実よりも早く日本に戻したことで、数十名の被災者が乗組員の救助活動で助けられ、皮肉なことに、虎の門事件を起こすメンバーが含まれていた。

 虎の門事件は単独犯ではなく、数名、あるいは、それ以上の人数による共同犯行になってしまう。

 一人でも取り逃がせば取り返しがつかない事態になる。

 

 クマさんを誘拐したファントムは人ではない。

 トキワ荘で漫画家たちがものした何万何百万の創作物……おそらくは、その中でも日の目を見なかった作品や登場人物の気が凝って具現化したもの。それが時空を超えて出現したものだ。

 そいつは、わたしや霧子の前にたびたび姿を変えて現れた新畑が関与、あるいは、やつの本体なのではないかという気がしている。

 ならば、この大正時代に留まっていて解決する問題でもない。

 が、いまのわたしには令和の時代に戻るすべがない。

 

 というわけで、今日は、みんなで銀座に足を運んでいる。

 

 高坂家のみんなが震災復興の元気のもとになればと作った再生服(カーテンやテーブルクロスで作った服)を着て、銀座で開催されている『震災復興大廉売会』に来ている。

「ここに立っていると、ほんとうに復興したような気になるわねえ」

 昨日まで気を落としていた霧子だが、四丁目の交差点まで来たところで、すこし元気になった。

「あれ、ゴジラが壊した時計塔やんか(^▽^)/」

 ノンコが無邪気に指をさす。

「そうだが、この時代にゴジラはないぞ」

「あ、せやったせやった(^_^;)」

 銀座四丁目と言えば、服部時計店と三越百貨店だ。

 どちらも、大正モダニズムを代表する建物で、先の大震災でも大した被害を受けることもなかったので、復興が早く、この震災復興大廉売会の中心になっている。

「しばらく雰囲気を満喫していようか……」

 誰に言うともなく霧子が漏らす。

 令和の時代なら、女三人、四丁目の交差点に突っ立っていては通行の邪魔になるばかりだが、大廉売会で賑わっているとはいえ、人通りは令和の半分ほどでしかない。

「ごめんあそばせ」

 気取ったあいさつで追い越していく女たち、再生服どころか、欧米最先端のファッションに身を包んでいる。

 ひざ丈スカート、ルーズなワンピース、クロッシェ(釣鐘型の帽子)の下は、思い切ったショートカット。

「うわあ、クラシックぅ!」

 ノンコが正直な感想を呟くと、ごめんあそばせがジロっと睨んでいく。

「あ、そか、あれがモダンやねんね」

「ノンコの感性おもしろい」

「いや、単にモダンとクラシックを取り違えただけだと思う。なあ、ノンコ」

「アハハ、うち、英語苦手やから(* ´艸`)」

「ああいう子たちをモガって言うんだ」

「モガ? なんか、美味しそう」

「モダンガールのことよね?」

「おお、霧子は知ってるんだな」

「うん……徳川さんたちが読んでた雑誌にね」

 声を潜めて言うのがおかしい。この時代でモガというのは不良少女と同義語だ。

「あ、来た来た!」

 ノンコが服部時計店の向こうを指さした。

「まあ、あの子ったら!」

 霧子もビックリする。

 向こうからやって来るのはJS西郷だ。

 若草色のワンピにストローハットは可愛いのだが、なぜか、ほとんど身の丈ほどもあるステッキを握っている。

 なんだか、子どもが仙人の真似をしているようで、珍妙なのだが可愛い。

「いやあ、待たせてごめんね」

 四丁目の交差点で立ち止まっていたのは、こいつと待ち合わせるためでもあったのだ。

「ごきげんよう、木村屋さんのお嬢ちゃん」

「ごきげんよう、霧子おねえさま。はい、お約束のシベリア。お家に帰ったらお召し上がれ」

「まあ、ありがとう。真智香さんからも噂は聞いていたわ」

「わたしのこと? シベリアのこと?」

「両方よ。さ、まずはお待ちかねのお子様ランチに行こうか?」

「うわーい!」

「食べる前から喜んでもらって、光栄だわ」

「うん、真智香さん。くたびれたから、これ持ってぇ」

 ズイっとステッキを押し出す。

「なんやのん、そのステッキは?」

「アハハ、ちょっと真智香さんから頼まれてたものよ」

「よし、預かろ……」

 受け取ったステッキは、予想の三倍は重たい。

―― 大助からかっぱらってきた ――

―― ダイスケ? ――

「お子様ランチのあと、チョコパフェも食べた~い(^▽^)/」

「まかせてちょうだい~」

 ダイスケが難波大助であると思い至るのに数秒かかった。

 大助こそは、虎ノ門で摂政の宮を狙撃した犯人。

 大助が使った凶器は、ステッキ型の仕込み銃だったぞ。

 本来ならば、これで事件は未然に防げたはずだ。

―― チョコパフェの恩義。あとは頼んだよ ――

 楽しそうに三越に入って行く三人に続いていくわたしだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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明神男坂のぼりたい・79〔麻衣の機嫌が悪い……〕

2022-02-21 06:56:32 | 小説6

79〔麻衣の機嫌が悪い……〕 

        


 おはようというとスマホが飛んできた!

 とっさに「なにをもったいない!」と、真剣スマホどり。

「どうしたの?」

 反射的に声をかける。教室の空気が割れかけのガラスみたいになってる。

 新垣麻衣が泣き崩れて、副委員長の南ラファがなだめ、他の者は凍り付いている。

――なかなかの呼吸だ――と、だんご屋定休日のさつきが合いの手を入れる。

「スマホにあたってもラチあかないよ。南さんの?」

「ううん、麻衣の。スマホの画面見て」

 友だちの麻衣とは言え、人のスマホ――いいの?――という気持ちで麻衣に目線を送る。泣いてるけど否定しないということは承諾のサイン。画面にはウィキペディアの「渋谷カーニバル」の項目が出てた。5秒で読んで意味が分かった。

―― 毎年10月に、渋谷で開かれていた『渋谷フェスティバル』のイベント。今年度は中止の方向 ――

「ああ、そうなんだ……」

 関係機関の財政難と道路工事の関係やら諸般の事情で今年度の開催は見送られたと書いてある。


 思い出した、渋谷フェスティバルは、前の都知事のころに廃止になっていた。今はパレードのカーニバルだけが残っていた。あたしも小さいころに保育所の仲間と観に行ったことがある。もっともマナブくん(関根先輩)のことが気になって、パレードそのものは、よく見てない。

 お祭りというと神田明神が頭にあるから。廃止になったことも、よく覚えてなかった。

 そして、もう一つ思い出した。一昨日のプールの更衣室で「今年の渋谷カーニバルには出るから、観に来てよ!」言ってたことを。

 麻衣は、パッと見では清楚な女子高生だけど、中身はバリバリのラテン系。一昨日のプールでは、いかんなく、そのラテンぶりを発揮していた。

「そうだ、こういうイベントって、あちこちでやってるから問い合わせてみたら?」

 登校してきた美枝が気を利かして提案した。

「ありがとう、みんな。あたしの発作的なカーニバル熱に付き合ってくれて」

 朝礼が始まるころには、さすがに麻衣は落ち着いた。だけど納得したわけじゃない。クラスのみんなの友情的な対応が麻友を落ち着かせたんだ。

 麻衣応援活動は、一時間目後の休憩時間に検索したり問い合わせたりするとこから始まった。

 結論はすぐに出た。

「東京近辺は見当たらないねえ」美枝が冷静な声で言った。こういう手配と、行動力は美枝が、やっぱり一番。ラブホのときもそうだったしね。

 麻衣は、表面張力ギリギリのとこで、自分を保ってた。なんとかしてあげなきゃ!

 

「そうだ、人がしてくれないんだったら、あたしたちでやればいいんだ!」

 

 美枝が飛躍した……。

 うまい具合に二時間目の先生が来るのが5分遅れたので、南ラファと中尾美枝の二人が教壇に立って決めてしまった。

「文化祭でリオのカーニバルやろ!」

 勢いというのは恐ろしいもので、その場の熱気で決まってしまった。あたしたちの2年3組は全校で一番早く文化祭の取り組みが決まってしまった。まだ、文化祭の公示も始まってないのに!

 家に帰ってから、小さな疑問が湧いた。

 麻衣のサンバ好きはよく分かる。なんといってもブラジルの子だしね。そのわりにはサッカーに興味が無い。こないだから始まってるワールドカップも、あの子の口からサッカーの話題が出たことがないよ……。

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