大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 60『市の堪忍袋は破裂寸前』

2022-02-22 14:49:49 | ノベル2

ら 信長転生記

60『市の堪忍袋は破裂寸前』信長  

 

 

 ギギギギ……

 歯ぎしりの音まで聞こえ始めた。市の堪忍袋は破裂寸前だ。

 相手は百余りの輜重部隊、俺ひとりが逃げるのは造作ないことだが、切れた市を連れていては難しい。

 目玉を左右に二ミリ動かせて観察。

 左翼がやや薄い。瞬間に二人を倒せば道は開ける。

 市が付いてこなければ……目の前の曹素を倒すしかない。曹素を倒せば、市は付いてくる。

 決めた!

 

 待てっ!

 

 踏み出そうとしたとき、森の向こうから声がかかった。

 曹素が嫌な顔をして振り返る。

 ドドドドドド

 蹄の音が轟いたかと思うと、朱具足に統一した騎兵の一群が迫って来る。

 具足の色と、蹄の勢いは信玄の赤備えに似ているが、先頭の大将は女だ。

「わたしの近衛兵になんの御用か……お兄ちゃん?」

 お、お兄ちゃんだと?

「お、お前の近衛だというのか?」

「ああ、そうだよ。酉盃で採用したばかりで、すまん……名前はなんであったかな?」

 瞬間、躊躇していると副官が耳打ちした。

「そうそう、職丹衣(しょくにい)と妹の市(しい)であったな。豊盃で編入させる予定だったが、いやいや、朝駆けしてきてよかった。あやうく同士討ちになるところだった。まだ、編入前で陣中作法も教えていない。なにか無礼があったのなら、将たるわたしの責任だ。この通り謝るよ、ごめん(*´人`*)!」

「あ、いや、そっちから謝られてはな(;'∀')」

「それにしても、お兄ちゃん、朝っぱらから商人のナリで隊商の真似とは、これも訓練なのかい?」

「あ、ああ、そうだ(;'∀')。敵地に入れば擬装して輸送任務にあたることもあるからな。そのための訓練だ」

「なるほど、隠密の輸送訓練なんだ。だったら、途中でもめ事なんか起こしてちゃダメ……かな?」

「あ、いや、なに……夕べ、不埒な兵が酒の勢いで女にイタズラした者が居ると聞いてな。そこに、不用心な女二人を見つけて、親切心から注意してやろうと思ったら……」

「そっかそっか、ちょっとした行き違いなんだね。ごめん、やっぱあたしの早とちりか。テヘペロ(๑´ڡ`๑)」

「そ、そうだ。まあ、よく躾けておくようにな」

「女にイタズラした兵にもね……」

「いくぞ、みんな!」

 回れ右して、曹素たちはゾロゾロと酉盃に戻って行った。

 ニコニコの笑顔で見送る赤備え。振り返ると鬼の形相……かと思いきや、相変わらずの笑顔で馬を寄せてきた。

「どうだい、ほんとうに曹茶姫(そうさき)の近衛になっちまわないかい? 君たちなら娘子憲兵ではもったいない」

「え、えと……」

「職市(しょくしい)、いや、シイちゃん。きみの困った顔はいいねえ。ごめん、いきなりじゃ困るよね。その気になったら、わたしの本営まで来て。そうだ、豊盃の通行手形を渡しておこう」

 茶姫が目配せすると、副官が、馬を下りて手形を渡してくれる。それも「どうぞ(^▽^)」って言ったし。

「時間があれば、このまま豊盃に戻るんだけどね。バカ兄貴のことも心配なんでね。まあ、夕方には戻るさ。ああ、森を抜けると、ちょっとした崖になっていて、いい風が吹いている……じゃあね」

 ピシリ

 五騎同時に鞭を当てると、軽やかな蹄の音をさせながら酉盃に駆けて行った。

 崖の手前で連絡用の紙飛行機を飛ばすと、姉妹二人で寝っ転がって、この先のことを考えた。

 見上げた空……腹が立つほど、ゆっくりと雲が流れて行った。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
  •    曹  茶姫       曹軍女将軍
  •  曹  素        曹茶姫の兄

 

 

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明神男坂のぼりたい・80〔オーディション〕

2022-02-22 07:02:16 | 小説6

80〔オーディション〕 

        
    

 100人ほども居る!

 AKR47のレッスン室前の廊下から、突き当りの階段の踊り場までちっこい折り畳みの椅子が並んでて、その椅子と同じ数だけの女の子が、お喋りもしないで行儀よく座っているのは奇観だった。

 ざっと見渡して、あたしより年上は、ほとんど居ない。中には、どう見ても小学生という子もいて、ティーンの女の子の見本市。

 これは三つ前の77の話を読んでもらったら分かるんだけど、お父さんとお母さんがガンダムに言われてやった、オープンキャンパスの申し込みに紛れてた一つ。

 今はパソコン一つでなんでもできる。「高校生進路」で検索して、あっちこっちに申し込んだ中の一つ。犯人はお父さん。進路希望を「演劇関係」と書いたもんだから、AKRだったら手っ取り早いし、書類選考に残るかどうかで、可能性も分かるという、オッサンらしい浅はかさ。

 けれど、書類選考に残ったということは、書類上とは言え、勝負に勝ったいうこと。応募は2800人もいたと言う話だから、2700人は蹴倒したことになる。あたしの頭脳回路では、これを受けなかったら「もったいない」という七文字の単語に行きつく。

 で、後先も考えないで実技選考オーディションに来たというわけ。

 自分で見えるとこを見渡しても、絶世の美少女から、吉本受けたほうがいいのにという子まで居て、見ばの点では、あたしは平均どころ? この中から最高でも20人しか合格できない。あたしは、その倍率だけで燃えてきた。

 AKRのオーディションは「動きやすい服装」とあるだけで、なんにも書いてない。チノパンにTシャツいう子が多かったけど、中には宝塚と間違ってレオタードいう子もいる。あたしは学校のジャージとTシャツ。なんせ家から15分のとこだから、近所をジョギングするようなナリになる。

 課題は「当日会場で発表」とあるだけで、なんにも書いてなかった。さすがに東京屈指のアイドルグループだけのことはある。

 五人ずつが会場に呼ばれる。あたしは八番目の席にいるから、第二グループになる。


「これって、なんの順番ですか?」

 つい、いらんことを聞いてしまう。

「コンピューターが無作為に選んだだけ。先着順いうのも面白くないからね」

 担当のおにいさんは、いいかげんな返事をして、最初の5人を中に入れた。二十分ほどしてその子らが出てきて入れ違いにあたしらが呼ばれる。

 八番だから、てっきり三番目かと思ってたら、のっけに呼ばれた。

「志望理由はなんですか?」

 いきなり聞かれた。

 相手に気持ちの準備をさせずに、生の姿を見ようという、この業界らしい対応の仕方。だから考えずに応えた。

「負けたくないからです」

「何に負けたくないのかな?」

「全てです。オーディション受けてる仲間にも、オーディションの先生たちにも、周りの期待からも、日本中のアイドルグループにも……そしてで自分にも」

 あたしは、演劇部のエチュードで課題をふられたノリになっていた。難しくは役の肉体化という。あたしは典型的なオーディション受験者という役を与えられて、それを即興でやってる感じ。なんだか自分の一生が、この一瞬にかかってるような気になっていた。あたしは世界で一番のオーディション受験者!

「じゃ、課題の歌唱テストいきます。どうぞ」

 質問は、この一つで、すぐに一曲歌わされた。条件はAKRグループの曲であること。これはチョロかった……けど、後になったら、なに歌ったのか忘れてしまった。

 次が戸惑った。

「なにか得意なことを一分間で見せてください」

「あ、えと……と……」

―― 東京音頭! ――

 この一瞬の戸惑いの隙を狙ったようにさつきがしゃしゃり出て、勝手に「東京音頭!」と言わせる。

「と、東京音頭!やります」の「ます」では、もう体がリズムを取っている。

 は~あ 踊り踊るな~ら ちょいと東京音頭 よいよい♪

 石神井の盆踊りで憶えたフリが自然に出てくるんだけど、オーディションで東京音頭はあり得ねえ!

 さつき、だんご屋のバイトはどうした!?

 花の都~の 花の都の真ん中で や~っとな それ よいよいよい(^^♪

 オーディションの先生たちも、すぐにノッて手拍子。ギターとパーカッションのニイチャンが合わせてくれて、なんと3分もやってしまった!

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