大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・126『凱旋』

2022-02-24 10:40:42 | ライトノベルセレクト

やく物語・126

『凱旋』 

 

 

 気が付くと、アキバの駅前広場。

 

 屋根付きエスカレーターがアキバブリッジに繋がって、その向こうにUDX。アキバの駅を出たら最初に目にする光景だけど、どれも、ちょっと背が高い。

 と思ったら、わたしは、ベッドみたいなのに寝かされている。

「お目覚めになりましたあ!」

 聞き覚えのある声に目を向けると、ラム、いや赤メイドが量の手の平をメガホンにして叫んでる。

 青メイドが涙ぐんで、その後ろにはティアラを煌めかせてメイド将軍たちが取り巻いている。

 タタタタタ

 焦っているけども品のいい靴落とさせて迫ってきたのは滝夜叉姫。

「お見事!お見事でした! 神田川の蛇に続いて、青龍もやっつけられました。これで、父の将門に巣くっていた業魔を二つも退治されたんです。やっぱりやくもさんのチームは最強です!」

 ガチャガチャ

 金属音がしたかと思うと、こんどは黄金のティアラと甲冑を身にまとった、ひときわ偉そうなメイド将軍だ。

 遠くからだと厳めしいんだけど、迫ってきた顔は、瞳爽やかな、昔懐かしい『ベルばら』のキャラが務まりそうな男前のメイドさんだ。

「メイド王のアレクサンドラだ。アキバ防衛のためとは言え、門前払いを食らわせてしまった。それにも関わらず、果敢にもブルードラゴンに立ち向かい、これを撃破した。その無礼を詫びるとともに、その栄誉を称え、お礼を述べたい。ほんとうにありがとう」

「あ、いえ。無我夢中でした。結果的に将門さまやアキバのみなさんのお役に立てたのでしたら光栄です」

「なんという謙虚! なんという寛容! 貴殿の好意と功績に応えるには足りないかもしれないが、我々の感謝の徴だ、これを受け取ってくれたまえ」

 メイド王が目配せすると、騎士メイドが小さな座布団みたいなものを捧げ持って現れた。

 座布団の上には、ハートの上に飾り文字のMをデザインした勲章が載っている。

「メイデン勲章、アキバ軍事部門の最高栄誉賞だ。これを身に着けていれば、世界中のどこからでもアキバにリープできるし、アキバ軍一個連隊の指揮権が与えられる」

「す、すごい……でも、軍隊の指揮なんて、とてもわたしには」

「ハハハ、やくもには名参謀が付いているではないか」

「え?」

「そのポケットに」

「あ、ああ……」

 ポケットから御息所が顔をのぞかせた。

「わらわにもくれると言うのか?」

「勲章の中には、ささやかだが館がひとつ入っている。日ごろは、そこで過ごせばよいであろう」

「そ、そうなのか? それなら、窮屈なポケットの中に入っていなくても済むんだな」

「いかにも、これからもアキバをよろしくな」

「陛下」

 騎士メイドが、小さく声を掛ける。

「なんだ、騎士メイド?」

「それはメイデン勲章改ですので、もうひとつ機能が……」

「ああ、そうであった。これにはコスプレ機能も付いている。勲章に手を当てて念ずれば、たいていのコスプレができるようになる」

「あ、ありがとうございます」

 どうしよう、コスプレなんて、恥ずかしくってできないけど、まあ、この状況ではお礼を言わなくっちゃね。

 それと、もうひとつお願いして置かなくっちゃ……そう思って胸に手を当てたけど……気配が無い。

「じゃ……えと、もう遅いから、学校もあるし、そそそろ帰ります」

「あ、そうか、やくもには学校もあるのだな」

「あ、それは休みだからいいんだけど、お風呂掃除とか……お爺ちゃん、夕食前にお風呂に入るから」

「おお、それは感心なことだ」

「では、これで失礼します」

 メイデン勲章に手を当てて――お家に帰る――と念ずる。

 

 ……あれ?

 

 ちっともリープできる気配が無い。

「ハハハ、念じて効果があるのはアキバに来る時で、戻る時は、あちらのエスカレーターからなのだよ」

 メイド王が、アキバブリッジのエスカレーターを指した。

「アハハ、なんだ、そうだったんだ(^_^;)」

「あと十体の退治が残っていますが、まずはお身体を休めてください」

 滝夜叉姫も優しく言ってくれる。

「「やくもさま、やくもさま」」

「あ、なにかなアカアオさん」

「こんど神田明神にお越しの時は……」

「よろしければ、この駅前広場で、お出迎え……」

「「いたします」」

「次には、馬車で」

「うん、ありがとう」

 馬車ということは、それだけ、将門さんも滝夜叉姫も回復しますよっていう決意表明だから、とても嬉しい。

「じゃあ、みなさん、失礼します」

 エスカレーターが上って行くと、アキバのメイドさんやメイド将軍、メイド王、滝夜叉姫、アカアオメイドさんたちが集まって手を振って名残を惜しんでくれる。

 そして、エスカレーターが上がっていくにしたがって風景はおぼろになって、一瞬真っ白くなったかと思うと、次には明るくなってエスカレーターは終わりになった。

 振り返ると、家の門の前だった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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明神男坂のぼりたい・82〔迷ってるヒマもない〕

2022-02-24 05:39:41 | 小説6

82〔迷ってるヒマもない〕 

 


 迷ってるヒマもなかった。

 なにがって、AKR47のこと。

 とにかく目の前の競争には負けたくない。その気持ちだけでオーディションを受けてきた。2800人が応募して、100人だけが書類選考に残って28倍の競争に残ったことになる。さらに100人のオーディション合格者から選ばれるのは20人だけ。それに合格したのは140倍の合格率に残ったいうことで、数で言うと、1780人の子を蹴倒して抜かしたことになる。

 大学の入試で、ここまで高い倍率はない。クラスの子たちが騒いでる進学レベルの話とは次元が違う。かろうじて麻友が言ってるアナウンサーの倍率がこれに近いけど、それは、これから大学に入って三年ぐらいになったときの問題で、まだ夢物語と言っていい話。

 だけど心は正直揺れた。研究生になれただけでアイドルになれると決まったものじゃない。これから厳しいレッスンと競争が待っている。

 AKR47は年に二回研究生をとる。合計40人。その中で、将来選抜メンバーに入れるのは二三人。そこから漏れたら、ただのコーラスライン。正直ビビる。

 美枝、ゆかり、麻衣なんかには相談しようかと思ったけど、半分自慢になりそうなので、言えない。で、ホントのホントは関根先輩に話したかった。相談じゃない。傍に寄り添っていてほしかったけど、これは、さらに実行不可能。

 で、じっくり考えて迷う暇も無く、合格発表の48時間後には入所式。

 いつになく口数の少ないあたしに、美枝たちはなにか言いたげだったけど、放課後、御茶ノ水まで歩いて電車に乗った。アキバで降りるのには早すぎて山手線に乗り換えて一周してしまう。

 6時から入所式。母親同伴いう子がほとんど。一人で来ているのはあたしぐらいのもの。ちょっと気持ちが軽くなった。

 ところが、合格者の席に座ってる子が22人いた。募集は20人だよ、なんで?


「オーディション合格おめでとう。祝福の言葉は、これだけです。ここから君たちの競争が始まります。だから、言うべき言葉の99%は『がんばれ』です。気が付いた人がいるかもしれないけど、ここには22人の合格者が居ます。そう、定員より二人多い数です。この意味は二つ。一つは、今回の受験者の水準が高く20人に絞り込めなかったということ。もう一つは研究生の平均一割が正規のメンバーになるまでに脱落していきます。その分を見込んだこともあります。AKR47そのものが、他の姉妹グループとの競争の中にあります。力のないものは、個人であれ、グループであれ、没落していくのが、この世界の常識です。学校ではないことを肝に銘じてください。学校では努力を評価しますが、この世界では努力は当たり前。大事なものは結果です。早ければ三か月。遅くとも半年で結果を出してください。一年たって結果が出ない人は先が無いと思ってください。以上。あとは研究生担当の市川が事務的な説明をおこないます」

 みんなの顔が引き締まった。さすがに勝ち残った子たちなので心細そうな子は一人もいない。
 

 レッスンは、月二回の休み以外、平日は2時間、休日は6時間。レッスン用の衣装は無し。と言って裸と言うわけではない。各自がレッスンに相応しいナリをしてくること、で、そのナリも評価のうちになるということ。レッスン料や所属費はとらないが、毎月あたしたちには一人当たり二十万円近いお金がかかっているらしい。

 そして、最後に合格書と保護者の承諾書が配られた。たったA4二枚だけど、めちゃくちゃ重かった。そして、良くも悪くも、あたしの人生を左右する運命の書類だった……。

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