大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 57『女たちを送る・2』

2022-02-04 13:41:23 | ノベル2

ら 信長転生記

57『女たちを送る・2』信長  

 

 


 お待ちを

 そこを曲がったら指南街というところで、落ち着きを取り戻した女の一人が立ち止まった。

「どうした」

「はい、お二人が痛めつけられましたので大事は無いと思うのですが、追手が来たりしませんでしょうか?」

「胸糞の悪い奴らだったが、雑兵ばかりだ。そもそも軍規に違反している。追い打ちなど、企んだだけで奴らの首は飛ぶ」

「そ、そうですか、安心しました」

「あんたたち、三人とも同じ家の娘なのか?」

「あ、わたしと、この子は姉妹ですが……」

「わたしは、二人の友だちです。わたしたち……」

「わけは聞かん、送り届けるだけだ。夜も更けてくるから、お前たちの家で泊めてもらうと助かる」

「あ、それはもう……あ、あそこが家です」

「あれか」

 百坪そこそこの家だが、くたびれている。

 周囲の家も似たり寄ったりで、どうも、酉盃の街では学者は優遇されてはいないようだ。

 ……ッワン! ワンワンワン!

 怯えたような犬の鳴き声、妹の方が崩れた土塀に回り込んで「おう、よしよしよしよし」となだめる。

「お母さん、帰りました」

 戸口から姉が声を掛けると、ガタガタ音をさせて、怯えた表情の女がでてきた。

「お、お前たち、どうして……?」

「はい、こちらのお坊様方がお助け下さって、ようやく戻ってきました」

「え……え……」

 反応がおかしい、娘が無事に帰ってきて喜ぶ母親の姿ではない。

「あんた……娘を売ったんじゃないのか?」

 市が押さえながらも、険しい声で質す。

「差しさわりがあるんだ、聞いてやるな」

「お母さんは、売ったわけじゃないんです。あの男たちが『いい勤め先がある』からって」

「はい、兵隊になる前は口入屋をやっていたという伍長さんが『駐留中、隊長の身の回りの世話をする者が欲しい』とおっしゃって」

「ふうん、身の回りの世話をねえ……」

「落ちぶれたとはいえ、学者の家の娘ですので、礼儀作法や家事一般のことには長けておりますので。そう申し上げると『それは都合がいい、では時間給を上げて特別手当も出そう』とおっしゃって、過分に前払い金を……」

「それを鵜呑みにしたのか!?」

「シイ(市の偽名)、止せ」

「止さない! あんな薄汚い兵隊の言葉をそのまま信じるなんて、こっちが信じられない! 娘たちが、どんな目に遭うかぐらい、想像がついただろ!」

「あ、いえ、わたしどもは……」

「お母さんを責めないでください。わたしたちも承知の上だったんですから」

「承知の上だって? 男どもに追いかけまわされ、乱暴されたあげくに殺されることが承知の上だって言うのか!?」

「こ、殺される?」

「そうよ、この子たち、半ば裸に剥かれて、必死で逃げて『助けて!』って叫んでた。それをほっとけなくて、あたしたち、助けたんだから! あいつら、あんたの娘たちを追いかけまわして、いたぶった挙句に犯して殺すつもりだったんだ、まるで、鷹狩の得物の兎のようにな!」

「止せ、シイ!」

「あんたたちも、これでいいわけ!?」

「「それは……」」

「明花、静花、殺されかけたのかい?」

「あ、いえ、お母さん……」

「ごめんよ、まさか、そこまでされるとは思ってなかった、お母さん……」

「あ、いえ……じゃなくて、お母さん」

 考じ果てたんだろう、母を抱きしめる姉妹は、涙を浮かべて、俺たちと母親を交互に見ている。

 もう一人の娘は俯いたまま口を一文字に結んだままだ。


「あんたたち、余計なことを!」

 別口が現れた。


「かあちゃん!」

 もう一人の母親だ。

「何ごとかと聞いて出てきたら、せっかく売った娘をなんてことしてくれるんだ!」

「お前の娘は殺されるところだったんだぞ!」

「売った娘だ、煮て食おうが焼いて食おうが買主の勝手だ! 真花さん、あんただって知ってただろう! それを、そんなしおらし気に、今知ったみたいに、いい母ぶるんじゃないよ!」

「陳鈴さん……」

「ここいらは、三国志の武断政治のお蔭でスッカンピンの学者と、その書生や下僕の街なんだ! なまじ、先帝の文治政治のころにマシな生活してたもんだから、子どもだけはいっぱいいて、だから、子ども売って生きてくしか手がないんだよ。子どもに運と才覚がありゃ、売られても、浮かぶすべも万に一つぐらいはある。それを、相手をぶちのめして、どういう了見だ! 指南の子どもは危なくて手が出せない、そう思われたら、もうあたしらに明日はないよ! いいや、仕返しでもされたら、明日にでも、この町は滅ぼされてしまうかもしれないじゃないか!」

「それはあるまい、これは軍の恥だ。報復などあり得ない」

「あんた、どこの国の人間だ? たとえ、兵隊に非があっても兵隊をぶちのめされて、黙ってるような将軍なんてありえないよ」

「クソババア、自分の非道は棚に上げておいて……許さないぞ!」

 いかん、市の顔が蒼白だ。並の切れようじゃないぞ!

「止せ!」

 市の肩を掴むが、一瞬遅れて、錫杖がクソババアの頬を掠める。

 シュッ

 糸のような鮮血が飛ぶ。

「ヒイ、人殺しぃ!」

「市!」

 ドゴ!

 ウ!

 錫杖で市の鳩尾をぶちのめす。

 瞬間で気絶した市を担いで、指南街の闇を駆けだした。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 

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明神男坂のぼりたい・62〔美枝が休み……!?〕

2022-02-04 07:03:17 | 小説6

62〔美枝が休み……!?〕 

       


「……よしなよ……明日からテストだし」

 ゆかりは言った。


 だけど、やっぱり行くことにした。どこへ……美枝の家へ。

 今日は、めずらしいことに美枝が学校休んでいた。普通の子だったら気にしない。だけど、美枝は違う。
 美枝は、高校に入ってから休んだことがない。中学も忌引きが一回あっただけだって、ゆかりも言ってた。

 それに、美枝にはラブホで聞いた秘密がある……。

 美枝の家は神保町にある。

―― 今からいくぞ ――

―― うん、どうぞ ――

 なんとも、そっけないメールのやりとりして神保町に向かった。ゆかりに声かけたら「やめときなよ」の返事が返ってきた。

 ゆかりは、あたしよりも、ずっと美枝とは付き合いが長い。そのゆかりが「やめときなよ」というのは重みがある「……テストだし」いうのは付け足しの言い訳に聞こえた。それに、付き合いが長いから、短い人間より親身になれるとも限らない。

 学校からは、駅一つ分距離があるけど、あたしは歩いていくことにした。

 明神だんごをお土産にしたかったけど、ちょっと遠回りなんで、途中のコンビニでプレミアムチーズロールケーキをお土産ともお見舞いともつかない気持ちで買う。

 くそ。

 レジに持っていったらタッチの差で、大学生くらいのニイチャンに先を越された。割り込むって感じじゃなかったんだけど、レジに置かれたのがコンドーさんだったんで、たじろいでしまった。ニイチャンはさっさと精算すると、柑橘系の……多分オーデコロンの残り香を残していってしまった。柑橘系は好きだけど、今のニイチャンは、醸し出す雰囲気が好きくなかった。

 美枝のうちは、八階建てのマンションの八階。

 オートロックのインタホン押して呼びかけると、美枝の明るい声で「入っといで」の応え。

 エレベーターで八階に上がり、ドアのピンポンを押すと同時に美枝がヒマワリみたいなに顔を出したんで、ちょっと拍子抜け。

 リビングに通されるまでの廊下を歩いて、4LDK以上の、ちょっとセレブなマンションだということが分かった。ファブリーズかなんかが効いてるんだろ、無機質なくらいニオイがしなかった。

「どうしたのよ、今日は?」
「今日はテストの前日やから、どうせ自習ばっかでしょ。それに昼までだし」
「え、じゃあ、勉強ばっかりしてたの?」

 お土産のプレミアムチーズロールケーキを広げながら聞いた。美枝は要領よく紅茶を用意してくれてて、すぐにティーポットにお湯を注ぎにいった。

「あたしね、二年で評定4以上にしときたいんだ。4あったら特別推薦選びほうだでしょ。明日は、成績に差のつきやすい数学あるじゃんか、あたし、これで点数稼ぐんだ」
「いいなあ。あたしは数学苦手だから、欠点でなきゃいい」
「ココロザシ低いなあ」

 美枝は小気味よくプレミアムチーズロールケーキをフォークで両断すると、トトロみたいな口を開けてパクついた。瓜実顔のベッピンが、そういう下卑た食べ方すると、なんとも愛嬌に見える。こんなことが自然にできる美枝が、ちょっと羨ましいかも。

「そんなんだったら、三年でキリギリスになってしまうよ」
「バカが一夜漬けしてもたかが知れてるしなあ」
「そだ、明日の予想問題見せたげよか!」
「え、そんなん作ってるのん!?」
「ちょっと待ってて!」

 美枝は自分の部屋にいくと、ゴソゴソしだした。

 で……ガラガラガッチャーンと美枝の悲鳴!

 痛ってえ……!

「ちょっと大丈夫!?」

 思わず美枝の部屋に駆け込んだ。美枝の部屋は美枝の雰囲気からは想像がつかないくらい散らかっていた。

「見かけによらん散らかりようだねえ」

 あたしも遠慮がなくなってきた。

「アハハ、こんなもんよ。あたしは外面女だからね。はい、これ」

 渡してくれたプリントもらって気がついた。

「柑橘系の匂い……」
「え……?」

 美枝の顔が、ちょっと歪んだ。

 コンビニで会ったニイチャンの話をした。まあ、偶然の一致と笑いたかったんだ。

 ええ! いまどきオーデコロン!? とか言って『妖怪コロン男!』とかね。

「そう、コンドー買ってたの……」

 美枝の表情がみるみる嵐の気配になってきた。

 で、びっくりした!

 ひっくり返ったゴミ箱から、未使用のまま鋏で切り刻まれたコンドーさんが一握り分ほど出てた。

「好きなんだったら、こんなもの使わないでって、ケンカになって……」

 そう言うと、目から涙がこぼれたかと思うと、机の上のものを全部払い落として、美枝は突っ伏して号泣しだした。

 

 もう、秘密にできないね。

 

 あのときラブホで聞いた美枝の秘密は、お兄ちゃんとの関係。

 美枝はお兄ちゃんとは血のつながりはない。再婚同士の連れ子同士。戸籍上だけの兄妹。

 親は共稼ぎで、家に居ることが少ない。で、いつのまにか、そういう関係になってしまった。

 ゆかりの「よしなよ」が蘇ってきた。ゆかりが正しかったんかもしれない。

 だけど、あたしは、ここまで見てしまった。

 放ってはおけない……けど、どうしよう。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 美枝           二年生からのクラスメート

 ゆかり          二年生からのクラスメート

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