大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・278『お、やった!的ノリでお散歩』

2022-02-19 15:48:30 | ノベル

・278

『お、やった!的ノリでお散歩』   

 

 

 ひょんなとこからお年玉の袋が出てきて、開けてみたら、お金が入ってたって、嬉しいないですか?

 一万円、きっと気絶する。しかし、これはありえへん。

 千円やったら、お、やった! 

 で、その日は一日、ちょっとだけ嬉しい。

 

 いえいえ、けして、お年玉のポチ袋を見つけたわけやないんです。

 2月19日のお天気が、そんな感じの「あ、やった!」という天気なんです。

 

 ネットの天気予報では、午前中は薄曇りで、昼からは雨になってた。

「これは一日家でゴロゴロかなあ……」

 と、ブタネコのダミアをゴロゴロ言わせながら、ゴロゴロしてた。

「そんなことしてたらダミアみたいになるわよ」

 留美ちゃんに、そない言われてお腹の肉を摘まんでみる。

「う~~ん」

 なかなか自己評価がしにくい(^_^;)

「このごろ体重計に乗ってないでしょ?」

「え、そんなこと……」

「体重計、このごろ濡れてないよ」

「え、ああ……」

 ここのところ、お風呂の順番は留美ちゃんの前なんで、見破られております。

「正直ね、さくらは。入る前に計ってますって言えばいいのに」

「あ、せやったか!」

「ね、天気予報も外れて、けっこういい天気だから出かけようよ」

「え、もうお昼ちゃうん?」

「まだ二時間もある。お弁当こさえて、どこか公園にでも」

「よし!」

 というわけで、お握り二個ずつこさえて、お出かけとなった。

 

 ほんま、ええ天気!

 

 この解放感は、高校にも合格して、宿題もなんにもない完全無欠の春休みやさかい。

 公立受ける子は、必死のパッチ。

 ほんま、聖真理愛学院一本勝負の専願で良かった!

「これは、きっと神さまからの御褒美やろねえ」

「そんなこと言っていいの? うちお寺だよ」

「アハハハ、せやせや(^_^;)」

 内心、いまの留美ちゃんの言葉は嬉しい。

 留美ちゃんは「うちお寺だよ」って言うた。

 留美ちゃんは、事情があって、うちの家で暮らして、そろそろ一年。

 最初はいろいろ戸惑いがあったり馴染めんかったりやったけど、いま「うちお寺だよ」と、すごく自然に言うた。

 嬉しい。せやけど、指摘したら、ぜったい照れてしまうから、おくびにも出しません。

「どこか公園とか思ったけど、なんか、ぜんぜん公園ないねえ」

「あ、ほんまやねえ」

 あたしも、中学に入ってからの堺市民なんで、中学と自宅の周辺以外の堺はあんまり知らん。

 元々住んでた大阪市は、校区に三つや四つ、大小の公園があった。

「このままだと、道端でお弁当になる」

「それは、ちょっとハズイかも……」

「ちょっと調べるね……」

 慣れた手つきでスマホを操作する留美ちゃん。うちの倍くらい検索するのが早い。

「ああ……無いよ……大仙公園まで行かないと……ほんとにないよ」

「ほんまにぃ?」

 顔を寄せて、スクロールされる画面を見るんやけど、ほんまに、家から1キロ以内のとこに一つも公園が無い。

 気の早いうちは、もう帰ろかいう気になる。

「ねえ、阪神高速の西側に行ってみようか?」

「高速の向こう側?」

 子どもの生活圏は、第一が校区。第二が大通り。

 大通りいうのは、車がビュンビュン走ってて、むろん横断歩道はあるんやけど、普段はめったに超えることが無い。

 というか、阪神高速の向こうは、マジで行ったことが無い。

「行ってみよっか?」

「うん!」

 というわけで、天気予報が外れてもうけもんの晴れなんで、少女二人の冒険になった。

 

「あ、お寺がある!」

 

 お寺に住んでるくせに……と、思いながらチラ見すると、スマホの地図には、うちの如来寺なんかハナクソかいうくらいのデッカイお寺の敷地が出てる。

「ああ……やっぱり、沢庵の南宗寺だ!」

 画面をスクロールして、感動爆発の留美ちゃん。

「え、タクアンのお寺?」

「うん!」

 うちは、丼物に添えてある黄色いタクアンとお寺が結びつかへんので、頭が?マーク。

「沢庵て、お坊さんが発明したんでタクアンって言うのよ。関東の人だと思ってたから、驚きだよ!」

 さすがは留美ちゃん。

「それにね、南宗寺には家康のお墓があるのよ!」

「ええ!?」

 家康はうちでも知ってる。

 というか、にっくき狸オヤジ! わが愛する木村重成さんをぶち殺してくれたにっくきカタキやおまへんか!?

 去年、頼子さんらといっしょに木村重成さんのお墓を見に行って、幻やねんけども重成さんに会った。

 重成さんは、兜に稿を焚きしめて、首をとられても汗臭くならないように気を配って「あっぱれ、木村重成!」と家康を感動させた。

 しかし、感動してもうちは許さへん。

 その、にっくき家康のお墓……え?

「家康のお墓って、日光やったんちゃうん?」

「実はね、大坂夏の陣で後藤又兵衛って侍大将に乗ってた籠ごと槍に突き刺されて、たどり着いた堺の街では死んでたって説があるの。それ以降の家康は、影武者だったって」

「え、ほんま!?」

「うん、江戸時代に、幕府のお金で、お墓の改修工事もやってるんだよ。それを元にした歴史小説もあるしね」

 うう、さすがはガチの文芸部(^_^;)。

「でも、この南宗寺だったとは知らなかったよ……」

 そうして五分後、大学一個が丸々収まりそうな南宗寺の門前に立つ。

「ああ……拝観料いるんだ」

 ほんのご近所散歩のつもりだったから、お財布とかは持って出てない。

「ちょっと、お金下ろしてくる!」

 文学的好奇心に火のついた留美ちゃんは、どこまでもアグレッシブ。

 スマホで、ATMのあるコンビニを検索する。

 

 ポツリ

 

 あ?

 スマホの画面に水滴が落ちる。

 二人そろって見上げた空は、いつのまにか鈍色になって、今にも本格的に降って来そう。

 さすがの留美ちゃんも「傘を買いに行こう!」とは言いださず、まっすぐ1キロの道を走って帰りました。 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・77〔そう言われても……〕

2022-02-19 06:52:02 | 小説6

77〔そう言われても……〕 

         


 これで四冊目……。

 大学の入学案内。

「明日香が、行きたいって言うからよ」


 ブスっとしていたら、お母さんに苦い顔された。

 元はと言えば、あたしが悪い。

 先週の懇談で「演劇やりたいです」なんて、苦し紛れに言うたもんだから、お父さんとお母さんが相談して、あちこちの演劇科のある大学から入学案内を取り寄せたんだ。それもネットで申し込むもんだから、あたしは、ほんと寝耳にミミズ……ミスタッチ。寝耳に水です。

「OG大学……KI大学……KZ大学……OS大学」
「こんなんも来てるぞ」
「ゲ……!」

 大手劇団の研究生募集のプリントアウトしたやつが三枚。

「まあ、なにも、この中から決めなさいってことじゃないわよ。懇談のあと、明日香がなんにもしないで、紫陽花がドータラ、ウンコ踏んでコータラて、全然その気になってないみたいだから、刺激を与えるつもりで取り寄せたものだから、気楽に見ればいいよ」

 と、母上はおっしゃる。

 仕方ないんで、三階の自分の部屋に戻って、パラパラとめくってみる。

――豪華講師陣!――
――舞台で、もう一人の自分を見つけよう!――
――ここに、君の新世界!――
――人生の第一幕が、今始まる!――

 四冊目で嫌になった。

 考えてみなくても分かる。この四大学の定員合わせただけで1000人は超える。それに大学は四年制。つまり、入学しても、先輩が同じ数だけ居て、他の短大やら専門学校、劇団の養成所あわせたら、もう自宅通学可能な範囲の中だけでも10000人近い演劇科の学生やら研究生が居る。

 これだけの需要が、この業界には無い。絶対!

 プロでやっていけるのは、まあアルバイトみたいなのも含めて一割。専業でやれるのは……考えただけで恐ろしくなる。

「ビビっとるだけじゃ、いつまでたっても決心できないぞ」

 寝るとき以外は上がってこないお父さんが、いつの間にか後ろに立ってる。

「人生と言うのは、石橋叩いていくもんじゃない。その時その時の出来心で分岐していくんだ。ま、明日香には、めったに人生訓めいたことは言わないけど、人生はやって失敗した後悔よりも、やらなかった後悔の方が大きい……と言うな」「そう言われても……」
「人生は短いぞ。こないだ女子高生だと思ってたのが、いつのまにか還暦前のオバハンだ」

 ハックション! 二階のリビングで、お母さんがクシャミをした。

「まあ、ゆっくり考え……言っても秋の進路選択には決めなきゃだけどな……」

 それだけ言って、お父さんは下に降りて行った。

―― 楽しい選択ではないか、命がかかってるわけじゃなし、ちょっとでもやりたかったら飛び込んでみろ ――

 さつきも勝手なことを言う。

 確かに、おとうさんの言うことにも一理ある。生まれて、まだ17年と2か月の人生だけど、思い返すと小学校、保育所の時代なんか、ついこないだだった。
 関根先輩のことも頭に浮かぶ。関根先輩の気持ちが揺れてるのは、あたしの錯覚だけではないと思う。そうでなきゃ呼びもしないのに運動会観にきたりしないだろ。麻友に鼻の下伸ばしたのも照れ隠し。踏み切れないのは、あたしの方かもしれない。

 ちがう、あたしの進路のことだ。

 確かに、コンクール出た時も、他の学校の子は大根だった。舞台で、その場所に立ってるということは、みんな役として理由か目的があるからだ。台詞は思考や行動の結果で、演技で一番大切なのは対象を、ちゃんと見て聞くこと。その結果自然に台詞が出てくるまで読み込んで演りこまなきゃならない。

 ダメ、今は自分のことだ。

「明日香、こんなのきたぞ!」

 また、お父さん。今度はプリントアウトした紙一枚。

 読んでびっくりした!

 それは、AKR47の書類選考合格の書類だった……。

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