大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・092『島粋主義ではないけれど』

2022-02-03 13:14:30 | 小説4

・092

『島粋主義ではないけれど』 加藤 恵    

 

 

 誰言うともなくパチパチ銀行と呼ばれるようになった。

 

 むろん正式な名称は西ノ島銀行だけどね。

 なんせ、窓口の日常業務をパチパチたちがやっている。

 見かけは十四歳の少女だけども、喋らせると、元の作業機械であった頃のパチパチのまんま。

 

「お客さま、新規の口座開設ですね」

 文字にすると普通なんだけど、ニッパチは中年サラリーマン風。

「客人、一年定期がお得でござるよ」

 サンパチは、サムライ。

「同志、利率はフートンが一番アルよ」

 イッパチは、古典的中華風。

 

 このギャップが面白く、また島民には安心感と親しみが持たれ、予想以上の繁盛ぶりになった。

「これは、早晩、規模を拡大しないと追いつかなくなるね」

 お昼ご飯のトレーをテーブルに置きながら社長が切り出す。

 食堂の窓から銀行の窓口が見えている。配給用の倉庫を改造した銀行なので、ほとんど素通しで、カウンターから奥の金庫室まで見えてしまっている。

 急速な発展が見込まれるのに、なんとも牧歌的。

「要員を増やさなければいけませんね」

「なにかアイデアはないかい?」

「そうですねえ……一般の島民から募集すれば?」

「ほう?」

「なにか?」

「メグミなら、パチパチと同じSK(作業機械)かロボットから選ぶと思ったんだけど」

「SKはパチパチたちだけでいいでしょ、理想を言えば、西ノ島の人口構成と同じになればと思いますよ」

「それも考え方だね」

「この食堂のメニューが、どれも美味しいのは、お岩さんが島の食材にこだわってるからだと思います」

 ヘクチ

 意外に可愛いクシャミが厨房から聞こえた。

「だけど、島粋主義というわけでもありません。これから、島は発展します。気を付けながらも島外からの投資や移民も考えなければと思います」

「そうだね……」

「あ、ひょっとして、社長から言い出すのは抵抗があります?」

「ハハ、見抜かれてるんだね」

「やっぱり」

「うん、この食堂のメニューは、どれも美味しいけど、そのままナバホ村やフートンに持ち込むようなことは、お岩さんしないだろ……お、今日のトンカツ、味も食感もいいね」

「分かったかい、社長?」

 エプロンで手を拭きながらお岩さんが近づいてきた。

「なにか変えた?」

「パン粉はナバホ、香辛料をフートンの使ってみたんだ。うちの野菜とバーターで」

「ほう」

「みんな、いろいろやってるんですよ」

「そうか、そうだね、美味しくなることはいいことだよねね」

 バン

 乱暴にスィングドアが開いたかと思うと、ナバホの村長がサブを連れて入ってきた。

「なんだ、村の食堂は休みなのかい?」

「昼は食べてきた、社長に用事……」

 最後まで言い切らず、村長は社長の向かいにドッカと腰かけた。

「ちょうど食べ終わったところだ、メグミ、お茶をくれませんか」

「はい、ただいま」

 お茶にことよせて、村長と二人で話したいんだ。このへんの呼吸は、だいぶつかめた。

 しかし、なにやら一大事のようなのに、完全な人払いをしないのは、社長らしい。

「早急に北の開発に乗り出したいんだが、社長の意見を聞きたい」

「島の北部を?」

「そうだ、北部だ……」

 

 それ以上の話は遠慮した。

 

 島の北部は、前世紀からの名残で日本国の主権下にある。

 西ノ島は、21世紀の噴火で拡大したが、不毛な火山島なので、請負開発されて、紆余曲折があって現在の氷室カンパニー、ナバホ村、フートンの持ち物同然になっている。

 パルスガ鉱石の発掘によって、飛躍的に価値が上がった島を日本国政府も放ってはおかなくなったというところだろう。

 そのために、北部の権利を広げておこうという、そういう話なんだと思う。

 

 ワハハハ

 

 なんか、笑い声が上がって、社長と村長が盛り上がっている。

 これは、フートンの主席もやってきて宴会になりそうな空気だ。

「宴会はいいけど、フートンも来るなら、お酒たりないよ」

 お岩さんが言うと、社長も村長も顔色が変わって、食堂に居合わせた者たちに酒の調達を命じる。

「みんな、酒の調達。これは業務命令だ!」

 いつも穏やかな社長の命令口調がおかしかった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・61〔うろ〕

2022-02-03 08:38:31 | 小説6

61〔うろ〕 

 

 

 いつものように男坂上って、明神さまの拝殿の前でペコリと一礼。

 すると、背後で気配というか視線を感じる。

 巫女さんの慣れた視線じゃなくて、邪な狎れた視線。

 振り返ると、随神門の外にだんご屋のお仕着せ姿のさつきがオイデオイデしてる。

「この時間からバイトなの?」

「いやな、今朝は週に一度の奉仕で、参道の清掃やってるんだ」

「バイトが?」

「ああ、女将さん、体調悪くって、それで買ってでたわけさ。関心だろ?」

「ああ、それで起きたら気配が無かったんだ」

 正直感心してるんだけど、素直には褒めてやらない。

「明日香にな、こんなものが憑りつこうとしていたから捕まえてやったぞ」

「え、なに?」

 差し出されたゴミ袋には、ゴミに混じって、手を縛られ猿ぐつわされた縫いぐるみみたいなのが入っている。

「ああ、百均のマスコット?」

「狼狽だ」

「うろ?」

「狼狽えるのうろ。人が慌てるネタを探して、タイミングよく思い出させては喜んでる下級の妖だ」

「え、あ、それはどーも……うん? なんで、あたしが狼狽えるわけ?」

「知りたいか?」

「あ、まあいいけど」

「たいしたことじゃない、一年で落とした追試が迫ってるだけだ」

「なんだ、そうか」

「じゃ、早く行け。遅刻するぞ」

「うん」

 

 通学路を半分くらいきたところでジワリと胸に刺さってきた。

 そうだよ、中間テストが迫って来てるのに、それにプラスしての追試だよ。

 狼狽というやつは、悪い奴じゃないんだ『これは大事だぞ!』って気づかせてくれる妖なんだ。

 さつきが捕まえてしまったものだから、自覚するのが遅れてしまったんだ(;'∀')。        

 

 狼狽えないから、追試やら学校の勉強やらの要らないことが、ボーっと動画を見てるみたいに浮かんでくる。

 

 英数が欠点。国語が、かつかつの40点。むろん欠点の英数は追認考査で挽回……受けるのはうっとうしい。

 放課後に残されて『二年生前学年度追認考査会場(以下教科名)』の張り紙された教室で試験を受ける。

 教室は、昔と違って廊下側に窓があるから外から丸見え。めっちゃウットウシイ。

 ときどき友だちやら、学年のオチャラケたやつが笑いながら通っていく。

 学校は、試験よりも晒し者にして、反省を促してる? いや、これはサドだね、SだよSMの世界。

 テストそのものは知れてる、だれにでもできる。なんせ、落ちたときのテストと答の両方が事前に配られ、その通りの問題が出る。これで落ちるやつは、よっぽどのアホか、学校にのっぴきなない反発心のある見上げたやつ。で、そんな見上げたようなやつはいないので追認は受けたら、みんな通る。

 ようは「恐れ入りました、お代官様!」という恭順の意が示せるかどうか。

 あたしは、お父さんの時代みたいに「造反有理」なんちゅうことは言いません。学校いうところに、そんな帰属意識もなければ、反骨の気持ちもない。だからチャンスくれるんだったら、惜しげもなく恭順の意を示して追試受けて、帳尻を合わせる。晒し者にならなきゃね。

 それに、追試の結果出るまで赤点のまんまだというのはケタクソワルイ。「今年こそは、欠点とらないぞ!」学期始めは一応決心。だけど毎日タラタラつまらん授業受けてるうちに、そんな気持ちは、春の日差しの中で蒸発してしまう。

 とにかく、学校の授業はつまらない。学校の先生いうのはしゃべりが下手っぴ。

 国語の教材に『富岳百景』があった。あたしは、とうに文庫で読んでいたから中味知ってたけど、先生が読むと、太宰治が生きていたら怒るだろってくらい下手。もう文学の冒涜だと言ってもてもいいくらい(*`へ´*)。

 説明も下手というよりは、そもそも伝えようという気が無い。

『富岳百景』の時代は昭和十三年の秋。舞台は甲州(山梨県)の御坂峠。これについて先生は何も語らない。

 こちらで山と言ったら飛鳥山か愛宕山。地べたのニキビみたいなもの。そこへいくと甲州の山は、それぞれ高々としてて人格を感じる。富士山なんかは、もう神さま。太宰の故郷には津軽富士とも言われる岩木山なんてのがあって、太宰の中には山に人格やら神格を感じる血が流れてる。やっぱりそういう描写をしながら授業しないと『富岳百景』の世界には入っていけない。
 
 せめて高さ。
 
 3776メートルいうても東京の子はピンとこない。「飛鳥山の145倍! ピンとこない? じゃあ、スカイツリーの6倍だ!」とか言って、窓の外見て、今の東京は、その富士山さえめったに拝めない。とかかましたら、ちょっとは関心持つだろう。

 それに、あの話には人間の美しいとこしか出てこない。太宰が連泊してた天下茶屋は女将さんと娘さんしか出てこないんだけど、店の主人は戦争にとられて中国に行っていた。毎日中国では日本兵が三桁の単位で戦死してた時代。残された家族が心配ないわけない。だけど、太宰は、あえて書いてない。ラストの女郎さんらの遠足も、どこか牧歌的。そういう事情を知っていたら、あの作品から見えてくるものは、もっと奥が深い。太宰の「単一表現」の苦しさと面白さの両方が分かる。

 以上は、テストの解答用紙の裏に書いた内容……おかげで40点。

 英語は、国語以上にどしようもない。なんで文法なんかやるかなあ。アメリカの子は文法なんか考えんと英語喋ってるのは当たり前だのに。それに先生たちの英語の発音の悪いこと。

 あたしは映画好きだから、よく観るよ。メルリ・リープやらアン・ハサウェイなんか、スンゴクいけてる。『プラダを着た悪魔』なんか最高にオシャレな映画だし、オシャレな英語が飛び交ってる。

 チャーチルが二日酔いで、議会に出たときオバチャンの議員さんに怒られた。そのとき返した言葉がふるってる。

 I am drunk today madam, and tomorrow I shall be sober but you will still be ugly

 訳すと、こうなる。

「いかにも、マダム、私は酔っ払ってる。しかし朝には私は酔いは覚めてシラフになるけど、あんたは朝になっても不細工なままだ」

 ジェンダーとかの観点からは張り倒されるんだろうけど、面白いから英語のまま覚えてる。

 チャーチルは見てくれの御面相では無くて、オバチャン議員の心映えのことを言ってるんだ。

 で、こんなことばっかり言って、追試もナメて、中間テストの勉強もちっとも進みません。はい。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

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