大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・094『通行許可!?』

2022-02-15 14:36:43 | 小説4

・094

『通行許可!?』 加藤 恵    

 

 

 島を調査の上、北部に選鉱所と付属の施設を作るのが、わたしの仕事です。

 

 及川は島が企画した歓迎会は饗応に当るというので、北部国有地に向かう道すがら、キッパリと断って、任地の北部に向かう道すがら強調した。

「どうも気が回らないことで、失礼しました」

「いやいや、融和的に協力し合っていこうというお気持ちは十分に伝わりました。本省では、西ノ島は鬼ヶ島のように言う者もおりましたが、いやいや、皆さんの島の発展を願うお気持ちは痛いほど伝わってきました。不肖及川軍平、皆さんと共に島と日本国発展の為に力を尽くせるのは、本職、無上の喜びとするところです」

「それでは、せめて任地の北部まで送らせていただきます」

 社長がカンパニーの車を示すと、これもキッパリと断った。

「申し訳ありませんが、それは便宜供与にあたります。明日の便で、簡易官舎といっしょに機材も送られてきます。どうぞお構いなく。みんな、任地まで歩くぞ!」

 随行の役人たちに声を掛けると、及川はズンズンと歩き出した。

 仕方なく、社長と主席は、たまたま進む方向が同じということにして歩き出した。村長は、及川の態度が無礼であると、サブだけを残し、村の者たちを引き連れて帰ってしまった。

「局長、ここからはナバホ村の所有地なので、管理者であるマヌエリト氏の同意が無いと立ち入れません」

「これは次長、良いところに気が付いてくれました。あやうく私権を侵害するところでした。すぐに立ち入り許可をもらってください」

「村長なら、さっき帰っちまったよ。通行すんのに、いちいち許可とか、西ノ島じゃやってねえから、普通に歩いてきゃいいんだ!」

 シゲさんが業を煮やして声を上げる。

「サブ、ひとっ走り行って村長に話を通してください」

「うん、分かった」

「ちょっと待ってください。次長、使用許可の書式を出してください」

「それなら、すでに用紙を用意しています」

 次長はリュックを下ろすと、ルーズリーフみたいな綴りを出し、五秒で必要なことを記入してサブに渡した。

「マヌエリト氏には署名していただくだけですが、拇印で結構ですので、捺印は必ずしてもらってください」

「ナツイン?」

「あ、外国の方だから署名でもけっこうですよ」

「あ、サイン」

 納得しながらも、サブは――やってらんねえ――という感じで肩をすくめる。

「書類は、令和の改革で書式が整っていればいいということになっていませんでしたか?」

「ええ、本土ではそうなんです。内閣の稟議書でも電子書類に既読マークが付けばいいことになっています。しかし西ノ島は、まだ本土の行政規範が適用されておりません。よって、明治三十五年の行政執行法に拠るしかないのです」

 明治35年……300年も昔のことだよ(^_^;)。

「お恥ずかしい、不合理ではありますが、立法と行政が追いついていないのです。間もなく、西ノ島開発特措法が衆議院を通過します。不合理なことと思われるでしょうが、ほんの一時の事です。お付き合いいただければ、本職、大いに助かります」

「そうですか……いや、それだけ、西ノ島の発展が急だったということですね。承知しました。みんな、そういうことだから、ここは及川局長の指示を歴史の勉強だと思ってつきあってください」

 社長が言うと、主席はじめ、居合わせた島民は苦笑いして頷くのだった。

 

 ニ十分後サブが戻ってきた。

 

「通りたければ勝手に通れってことだったっす」

 みんなから、クスクスと笑い声があがり、しょうがないねえと言う感じで社長の眉がヘタレる。

「仕方ありません。ちょっと遠回りになりますが、フートンの土地を通っていきましょう。周温雷さん、通行許可をお願いします」

 主席が苦笑いのまま、ため息一つしてサイン。

 ようやく、国交省調査団一行と出迎え一行は島の北を目指して動き出した。

 ちなみに、到着まで、さらに八枚の書類が発行され、ナバホ村に関するもの以外の六通の返答書類が返ってきた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室 以仁             西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長 マヌエリト          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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明神男坂のぼりたい・73〔宇賀先生のお見舞い〕

2022-02-15 06:22:51 | 小説6

73〔宇賀先生のお見舞い〕 

        


 やっぱり餅は餅屋だ。

 それまでは、美枝とゆかりの三人で、あーでもない、こーでもないと言い合いしていたんだけど。

「けが人さんのお見舞いに相応しい花を……」

 と、今まで三人で話し合っていた候補を言おうとしたら、間髪を入れずに花屋さんに聞かれた。

「女性の方ですか? 目上の方? お友だち? お怪我の場所は? で、ご予算は?」と、矢継ぎ早。

 待ち合わせのコーヒーショップで、話し合ったことが、みんな吹っ飛んでしまった。

「じゃ、こんな組み合わせでどうでしょう?」

 それは、カスミソウの中に赤やピンク、黄色などの明るいバラのアレンジだった。

「いやあ、この時期にまだバラがあったんですね!?」

 バラは宇賀先生に相応しいので、最初に候補にあがったんだけど、時季外れで無いだろうということで却下になってた。

 

 値段の割にゴージャスに見える花束を抱えて病室をノックした。

 

 ハーイという声がして、個室のドアが開いた。

 声から、宇賀先生自身かと思ったけど、出てきたのは宇賀先生のお母さんと思しきオバサンだった。

「まあ、あなたたち生徒さんたちね。わざわざ、どうもありがとう。さ、中へどうぞ」

 そうい言われて能天気三人娘は「お見舞いにきました!」

 ただでも声の大きな三人が、いっぺんに言ったので、病室にこだまし、慌てて口を押えた(^_^;)。

「ありがとう、三組の元気印」

 先生は明るい声で応えてくれたけど、あたしたちは後悔した。

 あのベッピンの宇賀先生の顔が三倍ぐらいに腫れて見る影もなかった。

「あ、お見舞いなにがいいかと思ったんですけど、先生に相応しいのは、だんぜんバラだと思って、色は、お若い先生に合わせて子供っぽいぐらいの明るい色にしました。まわりのカスミソウがあたしたち生徒の、その他大勢です!」

「ありがとう。あたし幼稚園のとき薔薇組で、漢字で薔薇て書けるのが自慢だったのよ」

 先生は、花束を抱きしめるようにして匂いを嗅いだ。

「いやあ、いい香り!」

「じゃあ、さっそく活けようね」

 お母さんが、そう言って花束を活けにいかれた。

「ガンダム先生が、すごく心配してらっしゃいました。授業ほとんど一時間使って、宇賀先生と人生について語ってくれたんですよ。ねえ」
「はい、けっきょく体育の時間で体動かしたのは、体育館のフロアー五周しただけです」
「ハハ、なにそれ?」
「人生を一週間の授業日に例えて、人生感じながら走ってきました」
「ハハ、岩田先生らしい手の抜き方ね」

 そんな調子で、バカで明るいことだけがテーマのおしゃべりして二十分ほどで帰った。おしゃべりの終わりごろ、おかあさんがバラを見事に花瓶に活けて持ってこられた。バラの健康的な明るさが、先生の痛々しさをかえって強調してるみたいだった。

 廊下に出ると美枝が泣きだした。病室ではほとんど黙ったままだったけど、ロビーに出てから、やっと口を開いた。

「ありがとう明日香。明日香一人に喋らして。あたし、喋ったら泣いてしまいそうで、喋れなかった」
「ううん、あたしだって、なに喋ったのか、よく覚えてないし」

 後悔していた。先生が怪我したんだからお見舞いは当然だと思っていた。だから親には「友達とお出かけ」としか言わなかった。言ってたら、お父さんもお母さんも止めていただろ。

 駅まで行くと、偶然、新垣麻衣に出会った。

「地理に慣れておこうと思って、定期でいけるところ行ったり来たり。日本の電車って清潔で安全なんだね。もう麻衣電車楽しくって……あなたたちは?」

 宇賀先生のお見舞だというと、麻衣の顔が険しくなった。

「行った後になんだけど、行くべきじゃなかったわね。先生の顔……ひどかったでしょ?」

 言葉もなかった。

 麻衣の話によると、顔を怪我すると数日間は顔がパンパンになり、人相もよくわからないくらいになってしまう。そしてブラジルでは、よくそういうことがあるらしい。

 麻衣は言わなかったけど、言い方やら表情から、身内でそういう目に遭った人がいるらしいことが察せられた。ガンダムが授業で先生の怪我の話をしたとき怖い顔になったのも、そういうことがあったからなんだろう。

「麻衣は、てっきり人生のこと考えて怖い顔になったと思ってた」
「ハハ、ラテン系は、そういうことは考えないの。その時、その場所が、どうしたら楽しくなるか。それだけ」

 身内にえらい目に遭うた人が……とは聞けなかった。


「いいこと教えたげようか」

「え、なに!?」

 麻衣は、うちが明るく話題を変えよとしてることが分かって、花が咲いたようなかわいい顔になった。

「あのね、定期というのは駅から出ない限り、どこまでもいけるんだよ!」
「ほんと!?」
「うん、うちのお兄ちゃんなんか試験前になると電車で遠くまで行って車内で勉強してたよ」
 美枝がフォロー。
「ただし、急行までね。特急は乗れないから。それから新幹線も」
 ゆかりが付け足す。
「ありがとう。じゃあ、今日は、どこ行こうかなあ!」

「そうだ、みんなで神田明神行こうよ!」

 美枝が提案して、四人で神田明神を目指した。

 こないだ、連れていってあげて、美枝は神田明神がお気になったみたい。

 四人でお参りすると、ちょうどお宮参りが二組来ていて、その可愛らしさと目出度さに四人で目を細めたり、四人並んで、お作法通りのお参りしてると外人観光客の人たちに写真撮られたり。

 巫女さんが、四人揃っての写真を撮ってくれて、最後はお決まりの明神団子で締めになった。

 四捨五入しても、いい休日になった。さつきもだんご屋の店員に徹して邪魔しにこなかったしね。

 

 

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